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TORENDIA

春の潮

本文約38,200字 ・ 読了時間 約77分

あらすじ(AIが作成しました)

養子先の深田家を三日目に飛び出した省作は、母にその理由を問われ、理由は自分でも明確に分からないと語る。一方、縁談を強硬に拒むおとよは、父から省作との関係を疑われ激しく叱責される。やがて省作とおとよは旅立つことになり、二人を慕うおはまを連れて汽車に乗る。旅の途上、省作への密かな恋心を抑えきれず泣きじゃくるおはまと、二人の間で揺れ動くおとよの心情が交錯する中、一行は千葉へと向かう。

伊藤左千夫

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一

隣の家から嫁の荷物が運び返されて三日目だ。省作は養子にいった家を出てのっそり戻ってきた。婚礼をしてまだ三月と十日ばかりにしかならない。省作も何となし気が咎めてか、浮かない顔をして、わが家の門をくぐったのである。

家の人たちは山林の下刈りにいったとかで、母が一人大きな家に留守居していた。日あたりのよい奥のえん側に、居睡りもしないで一心にほぐしものをやっていられる。省作は表口からは上がらないで、内庭からすぐに母のいるえん先へまわった。

「おッ母さん、追い出されてきました」

省作は笑いながらそういって、えん側へ上がる。母は手の物を置いて、眼鏡越しに省作の顔を視つめながら、

「そらまあ……」

驚いた母はすぐにあとのことばが出ぬらしい。省作はかえって、母に逢ったら元気づいた。これで見ると、省作も出てくるまでには、いくばくの煩悶をしたらしい。

「おッ母さん、着物はどこです、わたしの着物は」

省作は立ったまま座敷の中をうろうろ歩いてる。

「おれが今見てあげるけど、お前なにか着替も持って来なかったかい」

「そうさ、また男が風呂敷包みなんか持って歩けますかい」

「困ったなあ」

省作は出してもらった着物を引っ掛け、兵児帯のぐるぐる巻きで、そこへそのまま寝転ぶ。母は省作の脱いだやつを衣紋竹にかける。

「おッ母さん、茶でも入れべい。とんだことした、菓子買ってくればよかった」

「お前、茶どころではないよ」

と言いながら母は省作の近くに坐る。

「お前まあよく話して聞かせろま、どうやって出てきたのさ。お前にこにこ笑いなどして、ほんとに笑いごっちゃねいじゃねいか」

母に叱られて省作もねころんではいられない。

「おッ母さんに心配かけてすまねいけど、おッ母さん、とてもしようがねんですよ。あんだっていやにあてこすりばかり言って、つまらん事にも目口を立てて小言を言うんです。近頃はあいつまでが時々いやなそぶりをするんです。わたしもう癪に障っちゃったから」

「困ったなあ、だれが一番悪くあたるかい。おつねも何とか言うのかい」

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