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TORENDIA

河口湖

本文約4,500字 ・ 読了時間 約10分

あらすじ(AIが作成しました)

富士のふもとの宿屋を訪れた男は、天平式美人と評される宿の娘に出会う。男は鵜島へ向かうため、耳の遠い老爺が漕ぐ舟に乗って湖面へ出る。霧に包まれた湖で、老爺は富士山噴火と湖の成り立ちにまつわる古くからの言い伝えを語る。男は鵜島で美しい紅葉を手に入れ、宿へ戻る。娘は紅葉を受け取り、ささやかな晩餐の席で初めて笑顔を見せる。男は夢幻のような景色と静寂に包まれた一日の終わりに、穏やかな心地で眠りにつく。

伊藤左千夫

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🎧 河口湖 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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段ばしごがギチギチ音がする。まもなくふすまがあく。茶盆をふすまの片辺へおいて、すこぶるていねいにおじぎをした女は宿の娘らしい。霜枯れのしずかなこのごろ、空もしぐれもようで湖水の水はいよいよおちついて見える。しばらく客というもののなかったような宿のさびしさ。

娘は茶をついで予にすすめる。年は二十ばかりと見えた。紅蓮の花びらをとかして彩色したように顔が美しい。わりあいに顔のはば広く、目の細いところ、土佐絵などによく見る古代女房の顔をほんものに見る心持ちがした。富士のふもと野の霜枯れをたずねてきて、さびしい宿屋に天平式美人を見る、おおいにゆかいであった。

娘は、お中食のしたくいたしましょうかといったきり、あまり口数をきかない、予は食事してからちょっと鵜島へゆくから、舟をたのんでくれと命じた。

富士のすそ野を見るものはだれもおなじであろう、かならずみょうに隔世的夢幻の感にうたれる。この朝予は吉田の駅をでて、とちゅう畑のあいだ森のかげに絹織の梭の音を聞きつつ、やがて大噴火当時そのままの石の原にかかった。千年の風雨も化力をくわうることができず、むろん人間の手もいらず、一木一草もおいたたぬ、ゴツゴツたる石の原を半里あまりあるいた。富士はほとんど雲におおわれて傾斜遠長きすそばかり見わたされる。目のさきからじきに山すそに連続した、三、四里もある草木あるいは石の原などをひと目に見わたすと、すべての光景がどうしてもまぼろしのごとく感ずる。

予はふかくこの夢幻の感じに酔うて、河口湖畔の舟津へいでた。舟津の家なみや人のゆききや、馬のゆくのも子どもの遊ぶのも、また湖水の深沈としずかなありさまやが、ことごとく夢中の光景としか思えない。

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