TRENDIA CLASSIC
菜の花
小島烏水
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市街に住まっているものの不平は、郊外がドシドシ潰されて、人家や製造場などが建つことである、建つのは構わぬが、ユトリだとか、懐ろぎだとかいう気分が、亡くなって、堪まらないほど窮屈になる、たとえやにこくても、隙間もなく押し寄せた家並びを見ていると、時々気が詰まる、もし人家の傍に、一寸した畠でもあれば、それが如何に些細なものであっても、何だか緩和されるような気になる、そうして庭園のように、他所行きの花卉だの、「見てくれ」の装飾だのがしてないところに、又しようとも思わない無造作のところに、思いさま両手を伸ばして欠びでもするような気持になれる。
少なくとも、市街は接近した、もしくは市街を前景とした畠は、野菜を作って、食膳に供給するという実用的の意味に於てよりも、人間と人間との間に踏み固められない、柔かい黒い土を割り込ませて、庇の連続や、肱の突き合いを緩和させるという点だけで、保存して置きたく思う、そういう意味で、保存するとなれば、何も月末の八百屋の払いを、幾分か助けるつもりで、胡瓜や茄子を作る必要はない、黒土のままで残して置いて、春の温気が土のかおりを蒸し上げるのを、ぼんやり眺めていてもいいのであるが、それではあまりサッパリし過ぎるから、春ならば先ず私は、何を置いても、そこに菜の花を観たい。
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