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TORENDIA

婦人の笑顔

本文約620字 ・ 読了時間 約2分

あらすじ(AIが作成しました)

禅僧が画賛として残したおふくの言葉を通じ、古くから絵画や演劇に登場するおかめや婦人の笑顔について綴る。中世の暗い時代にあって光り輝いていたはずのその表情が、後世の人々により道化役や縁起物として消費され、本来の意味を失い、滑稽な記号へと変質してしまった過程を考察する。人間がいかに価値あるものを弄び、幸福を象徴する微笑みさえもその本質が見えなくなるほどに変容させていくかを鋭く問いかける評論である。

島崎藤村

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🎧 婦人の笑顔 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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古人の言葉に、

「おふくは、鼻の低いかはりに、瞼が高うて、好いをなごじやの、なんのかのとて、いつかいお世話でござんす。」

これは、名高い昔の禅僧が残した言葉で、おふくが文を持つ立姿の図に、その画賛として書かれたものであるといふ。仮令鼻が低いと言はれようが、瞼が高いと調戯はれようが、女の身ながらに眼を見開くなら、この世に隠れてゐる宝と生命と幸福とが得られるといふこゝろもちを、いかにも軽く取り扱つてあるらしい。

このおふくのことで想ひ起すのは、彼女の姉妹とも言ひたいおかめの俤である。共に婦人の笑顔をあらはして、遠い昔からいろ/\な絵や、彫刻や、演劇舞踊の中にまで見えつ隠れつしてゐるのが、わたしの心をひく。中世以来、続きに続いた婦人の世界の暗さを思へば、「笑」を失つたものが多からうと思はれる中で、あれは光つた笑顔に相違ない。ところが、こゝに縁起をかつぐやうなことばかりを知つて、あのおかめの面の奥を覗いて見たこともないやうな人達がある。さういふ人達が寄つてたかつて、太神楽の道化役にも使ひ、酉の市の熊手のかざりにまで引張り出す。折角をかしみのある女の風情も、長い間に磨り減らされ、踏みにじられてしまつた。おかめの「笑」と言へば、今はたゞ浅い滑稽の表象でしかない。人はいかなるものをも弄ぶやうになるものだ。すくなくもこの世に幸福を持ち来しさうなあの福々しい女のほゝゑみも、あれはその実、笑つてゐるのか泣いてゐるのか分らないやうな気がする。

完

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