北村透谷詩集
本文約7,600字 ・ 読了時間 約16分
あらすじ(AIが作成しました)
北村透谷による詩集。春の訪れに胸を躍らせる心情や、秋の哀愁の中で眠る蝶の姿などを通じて、自然の移ろいと儚い命の情景を描く。また、行脚の途上で見かけた蚯蚓と蟻の対峙を通じて生と死の理を綴り、夢と現実の間で揺れ動く繊細な内面や、運命に翻弄される個の存在を見つめ直す。詩歌や随筆の形式を用い、独自の視点から思索を展開する作品群を収める。
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夢中の夢
嗚呼かく弱き人ごゝろ、
嗚呼かく強き戀の情、
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朝靄の歌
もらすなよあだうつくしの花、
消ゆる汝共に散るものを、
うつくしとても幾日經ぬべき、
盛りと見しははやすたり
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春駒
第一 門出
北風に窓閉されて朝夕の
伴となるもの書と爐火、
軒下の垂氷と共に心凍り
眺めて學ぶ雪達摩、
けふまでこそは梅櫻、
霜の惱みに默しけれ。
霜柱きのふ解けたる其儘に
朝風ぬるしけふ夜明け、
書の窓うぐひすの音に開かれて、
顏さし出せば梅の香や、
南か北か花見えず、
いづこの杜に風の宿。
耳澄まし暫く聞けば鶯の音は
「春」てふものをおとづれぬ。
× × × × × × × ×
書とぢよ、筆措けかしといざなふは
いづこに我をさそふらん。
冬に慣れにし氣は結び、
杖ひき出づる力なし。
〔この間見えず〕
ひとむち當てゝ急がなん。
花ある方よ、わが行くは、
ゆふべの夢の跡戀し。
第二 霞の中
來し道は細川までを限りにて
霞に迷ひうせにけり、
春の駒ひとこゑ高く嘶けば、
吾が身もやがて烟の中、
戀にむせびてうなだるゝ、
招きし花はいづこぞや。
夢にまでうつりし花の面影を
訪ね來て見れば跡もなし、
深山路の人家もあらず聲もせぬ、
廣野の中にわれひとり;
かこつ泪や水の音、
花ある方にそゝげかし。
おりたちて清水飮まする駒の背を
撫でさすりつゝ又一ト鞭、
勇めどもいづれをあてとしらま弓;
思ひ亂れて見る梢に、
鳥の鳴く音ぞかしましき。
立ち籠むる霞の彼方に驅入れば、
小高き山に岩とがり、
枯枝は去歳の嵐に吹き折られ、
其まゝ元梢に垂れかゝる;
さびしさ凄し、たれやたれ、
われを欺き、春告げし。
駒かへしこなたの森の下道を、
急ぎ降れば春雨の、
振りいでゝしよぼぬるゝわが足元を、
かすかにはたく羽の音、
かなたへ隱れて間もあらず、
鳴く聲きけば雉子なり。
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春は來ぬ
今日はじめて春のあたゝかさ覺えぬ、
風なく日光いつもよりほがらなり、
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地龍子
行脚の草鞋紐ゆるみぬ。
胸にまつはる悲しの戀も
思ひ疲るゝまゝに衰へぬ。
と見れば思ひまうけぬ所に
目新らしき花の園。
人のいやしき手にて作られし
物と變りて、百種の野花
思ひ/\に咲けるぞめでたき。
何やらん花の根に
うごめく物あり。
眼を下向けて見れば