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TORENDIA

独身

本文約8,900字 ・ 読了時間 約18分

あらすじ(AIが作成しました)

冬の小倉で、極めて澹泊な独身生活を送る大野豊の邸に、知人の戸川と富田が集まる。酒席では有妻か独身かという議論が交わされ、その後、寧国寺という坊主も加わって古本の話などに花を咲かせる。夜更けに独りとなった大野は、東京の祖母から届いた手紙を開封する。そこには、ある女性との縁談を強く勧める内容が綴られていた。彼は冷たい寝床へと向かい、自身の心情や周囲の人間関係を静かに振り返りながら夜を過ごす。

森鴎外

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壱

小倉の冬は冬という程の事はない。西北の海から長門の一角を掠めて、寒い風が吹いて来て、蜜柑の木の枯葉を庭の砂の上に吹き落して、からからと音をさせて、庭のあちこちへ吹き遣って、暫くおもちゃにしていて、とうとう縁の下に吹き込んでしまう。そういう日が暮れると、どこの家でも宵のうちから戸を締めてしまう。

外はいつか雪になる。おりおり足を刻んで駈けて通る伝便の鈴の音がする。

伝便と云っても余所のものには分かるまい。これは東京に輸入せられないうちに、小倉へ西洋から輸入せられている二つの風俗の一つである。常磐橋の袂に円い柱が立っている。これに広告を貼り附けるのである。赤や青や黄な紙に、大きい文字だの、あらい筆使いの画だのを書いて、新らしく開けた店の広告、それから芝居見せものなどの興行の広告をするのである。勿論柱はただ一本だけであって、これに張るのと、大門町の石垣に張る位より外に、広告の必要はない土地なのだから、印刷したものより書いたものの方が多い。画だっても、巴里の町で見る affiche のように気の利いたのはない。しかし兎に角広告柱があるだけはえらい。これが一つ。

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