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TORENDIA

チュウリップの幻術

本文約5,700字 ・ 読了時間 約12分

あらすじ(AIが作成しました)

五月の農園へやってきた洋傘直しは、園丁に頼まれて鋏や剃刀を研ぐ。作業の合間、二人は園丁が最も大切にする白いチュウリップを眺める。その花に見入るうち、二人は花びらから光り輝く酒が湧き出るような幻覚の世界に引き込まれる。周囲の木々が踊り出し、酒に火が燃え広がる不思議な体験を経て、正気に戻った洋傘直しは、再び日常の風景の中へと立ち去っていく。

宮沢賢治

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🎧 チュウリップの幻術 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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この農園のすもものかきねはいっぱいに青じろい花をつけています。

雲は光って立派な玉髄の置物です。四方の空を繞ります。

すもものかきねのはずれから一人の洋傘直しが荷物をしょって、この月光をちりばめた緑の障壁に沿ってやって来ます。

てくてくあるいてくるその黒い細い脚はたしかに鹿に肖ています。そして日が照っているために荷物の上にかざされた赤白だんだらの小さな洋傘は有平糖でできてるように思われます。

(洋傘直し、洋傘直し、なぜそうちらちらかきねのすきから農園の中をのぞくのか。)

そしててくてくやって来ます。有平糖のその洋傘はいよいよひかり洋傘直しのその顔はいよいよ熱って笑っています。

(洋傘直し、洋傘直し、なぜ農園の入口でおまえはきくっと曲るのか。農園の中などにおまえの仕事はあるまいよ。)

洋傘直しは農園の中へ入ります。しめった五月の黒つちにチュウリップは無雑作に並べて植えられ、一めんに咲き、かすかにかすかにゆらいでいます。

(洋傘直し、洋傘直し。荷物をおろし、おまえは汗を拭いている。そこらに立ってしばらく花を見ようというのか。そうでないならそこらに立っていけないよ。)

園丁がこてをさげて青い上着の袖で額の汗を拭きながら向うの黒い独乙唐檜の茂みの中から出て来ます。

「何のご用ですか。」

「私は洋傘直しですが何かご用はありませんか。若しまた何か鋏でも研ぐのがありましたらそちらのほうもいたします。」

「ああそうですか。一寸お待ちなさい。主人に聞いてあげましょう。」

「どうかお願いいたします。」

青い上着の園丁は独乙唐檜の茂みをくぐって消えて行き、それからぽっと陽も消えました。

よっぽど西にその太陽が傾いて、いま入ったばかりの雲の間から沢山の白い光の棒を投げそれは向うの山脈のあちこちに落ちてさびしい群青の泣き笑いをします。

有平糖の洋傘もいまは普通の赤と白とのキャラコです。

それから今度は風が吹きたちまち太陽は雲を外れチュウリップの畑にも不意に明るく陽が射しました。まっ赤な花がぷらぷらゆれて光っています。

園丁がいつか俄かにやって来てガチャッと持って来たものを置きました。

「これだけお願いするそうです。」

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