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TORENDIA

貧乏

本文約8,100字 ・ 読了時間 約17分

あらすじ(AIが作成しました)

金銭に窮した夫婦が、朝から酒を飲みながら生活の困苦や強盗の是非について激しく語り合う。夫は自らの不遇な境遇を嘆き、妻は呆れつつも毅然とした態度を崩さない。極限の状況下で互いの情愛を確かめ合った二人は、強盗という極端な手段を示唆する冗談を交えつつ、再び酒を酌み交わす。本作は、貧乏な暮らしの中でも決して絆を失わない夫婦の姿を、諧謔的な会話を通じて鮮明に描き出している。

幸田露伴

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その一

「アア詰らねえ、こう何もかもぐりはまになった日にゃあ、おれほどのものでもどうもならねえッ。いめえましい、酒でも喫ってやれか。オイ、おとま、一升ばかり取って来な。コウ、もう煮奴も悪くねえ時候だ、刷毛ついでに豆腐でもたんと買え、田圃の朝というつもりで堪忍をしておいてやらあ。ナンデエ、そんな面あすることはねえ、女ッ振が下がらあな。

「おふざけでないよ、寝ているかとおもえば眼が覚めていて、出しぬけに床ん中からお酒を買えたあ何の事たえ。そして何時だと思っておいでだ、もう九時だよ、日があたってるのに寝ているものがあるもんかね。チョッ不景気な、病人くさいよ、眼がさめたら飛び起きるがいいわさ。ヨウ、起きておしまいてえば。

「厭あだあ、母ちゃん、お眼覚が無いじゃあ坊は厭あだあ。アハハハハ。

「ツ、いい虫だっちゃあない、呆れっちまうよ。さあさあお起ッたらお起きナ、起きないと転がし出すよ。

と夜具を奪りにかかる女房は、身幹の少し高過ぎると、眼の廻りの薄黒く顔の色一体に冴えぬとは難なれど、面長にて眼鼻立あしからず、粧り立てなば粋に見ゆべき三十前のまんざらでなき女なり。

今まで機嫌よかりし亭主は忽然として腹立声に、

「よせエ、この阿魔あ、おれが勝手だい。

と云いながら裾の方に立寄れる女を蹴つけんと、掻巻ながらに足をばたばたさす。女房は驚きてソッとそのまま立離れながら、

「オヤおっかない狂人だ。

と別に腹も立てず、少し物を考う。

「あたりめえよ、狂人にでもならなくって詰るもんか。アハハハハ、銭が無い時あ狂人が洒落てらあナ。

「お銭が有ったらエ。

「フン、有情漢よ、オイ悪かあ無かったろう。

「いやだネ知らないよ。

「コン畜生め、惚れやがった癖に、フフフフフ。

「お前少しどうかおしかえ、変だよ。

「何が。

「調子が。

「飛んだお師匠様だ、笑わせやがる。ハハハハ、まあ、いいから買って来な、一人飲みあしめえし。

「だって、無いものを。

「何だと。

「貸はしないし、ちっとも無いんだものを。

「智慧がか。

「いいえさ。

「べらぼうめえ、無えものは無えやナ、おれの脱穀を持って行きゃ五六十銭は遣すだろう。

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