石ころ路
本文約19,200字 ・ 読了時間 約39分
あらすじ(AIが作成しました)
三宅島へ渡った「僕」は、強い北西風に閉じ込められながら、島独自の風土やそこに住む人々との交流を経験する。島特有のならいの風や荒れた自然の中で、酒に酔った男や悩み多き娘と出会い、彼らの生活を垣間見る。東京での生活を離れ、島という別世界に身を置くうちに、自分の内面にある孤独や空虚さと対峙していく。最後に一人で雄山へ登った「僕」は、崖から見下ろす海と自身の存在の危うさを感じながら、島の日常と自身の心象風景を重ね合わせていく。
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島へ着いた翌日から強い風が出て、後三日にわたって吹いて吹き捲った。雨も時々まじったが、何より風の強さに驚いた。島の人に訊くと、こんな風ならしょっちゅうだと言う。もっとひどいときのはどんなだろうと思った。
僕の着いた日は、海にうねりこそあったが、穏かなうす曇りで、船から望んだときの三宅島はその火山島らしい円錐形の半ばの高さから下方は淡緑色に蔽われて、陸へ上るとすぐ、そこは黒砂のあまり大きくない浜で、そこから三十メートルぐらいの断崖についている急な坂路を上って、ゆるやかな傾斜地を走っているやや広い路に出たとき、あたりの土手にたくさんある灌木はもう若々しい広い葉っぱを出しているし、路の両わきの木々も、それからところどころの樹の間から眺望されるなだらかな山裾、それはしだいに盛り上って向うに島の中心をなす雄山の柔かいふくらみが眼を惹きつける、そこら一帯の榛の木の疎林、あたりの畑地にもいっせいに新芽をふきだしているのを見て、僕はいきなり春の真中へとびこんだような気がしたものだ。
それが三日間の強い北西の風でまた冬に逆もどりした形だった。僕の来た分の次の汽船は島へ近寄れなくって、大島の波浮港まで避難したという。着くなり風に閉じこめられた工合で、僕は終日呆然として庭の向うの楠の大木が今にもちぎれそうに枝葉をふきなびかされるのを、雨を含んだ低い雲がすぐ頭の上と思えるくらいのところを速くひっきりなしに飛んでゆくのを眺め、小やみなく遠くの方で起って、きゅうにどっと襲って、また遠くの方で唸っている風の音を聞いてすごした。