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TORENDIA

毒蛾

本文約6,500字 ・ 読了時間 約14分

あらすじ(AIが作成しました)

イーハトブ地方を巡回する文部局の視学官は、毒蛾が異常発生した首都マリオへ到着する。町中では人々が毒蛾の被害に怯え、対策として焚き火を焚き、顔を覆い歩く異様な光景が広がっていた。視学官は宿泊先のホテルや床屋で、人々の混乱と毒蛾への過剰な対応を目の当たりにする。その後、別の町ハームキヤを訪れた視学官は、同様に毒蛾への恐怖が蔓延する状況で、大学校の教授たちが顕微鏡で鱗粉の毒性を解明しようとする姿に出会い、毒蛾発生の実態に直面する。

宮沢賢治

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私は今日のひるすぎ、イーハトブ地方への出張から帰ったばかりです。私は文部局の巡回視学官ですから、どうしても始終出張ばかりしてゐます。私が行くと、どこの学校でも、先生も生徒も、大へん緊張します。

さて、今度のイーハトブの旅行中で、私は大へんめづらしいものを見ました。新聞にも盛んに出てゐましたが、あの毒蛾です、あれが実にひどくあの地方に発生したのです。

殊に烈しかったのは、イーハトブの首都のマリオです。私が折鞄を下げて、マリオの停車場に下りたのは、丁度いまごろ、灯がやっとついた所でしたが、ホテルへ着いて見ると、この暑いのに、窓がすっかり閉めてあるのです。マリオは、こゝから三百里も北ですから、よほど涼しい訳ですが、やっぱり仲々蒸し暑いですからね、私は給仕に、

「おいどうしたんだ。窓をあけたらいゝぢゃないか。」と云ったんです。すると給仕はてかてかの髪を一寸撫でて、

「はい、誠にお気の毒でございますが、当地方には、毒蛾がひどく発生して居りまして、夕刻からは窓をあけられませんのでございます。只今、扇風機を運んで参ります。」と云ったのでした。

なるほど、さう云って出て行く給仕を見ますと、首にまるで石の環をはめたやうな厚い繃帯をして、顔もだいぶはれてゐましたからきっと、その毒蛾に噛まれたんだと、私は思ひました。ところが、間もなく隣りの室で、給仕が客と何か云ひ争ってゐるやうでした。それが仲々長いし烈しいのです。私は暑いやら疲れたやら、すっかりむしゃくしゃしてしまひましたので、今のうち一寸床屋へでも行って来ようと思って室を出ました。そして隣りの室の前を通りかゝりましたら、扉が開け放してあって、さっきの給仕がひどく悄気て頭を垂れて立ってゐました。向ふには、髪もひげもまるで灰いろの、肥ったふくろふのやうなおぢいさんが、安楽椅子にぐったり腰かけて、扇風機にぶうぶう吹かれながら、

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