本文へ移動
TORENDIA

鬼の話

本文約5,100字 ・ 読了時間 約11分

あらすじ(AIが作成しました)

日本の古代信仰における神や霊と並び、重要な存在であった「おに」について論じる。当初は海の彼方の理想郷から来臨する常世神としての性格を帯びていたが、時代の変遷や仏教の影響、神との問答を軸とする祭礼での矛盾した関わりを経て、その概念がどのように変化し、土地の精霊や死者の霊と結びつき、独自の芸能や演劇の発生、さらには祝祭の儀式へどのように昇華されていったかを、各地の伝承や文献を引用しながら考察する。

折口信夫

速度
🎧 鬼の話 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 6

一 おにと神と

「おに」と言ふ語にも、昔から諸説があつて、今は外来語だとするのが最勢力があるが、おには正確に「鬼」でなければならないと言ふ用語例はないのだから、わたしは外来語ではないと思うてゐる。さて、日本の古代の信仰の方面では、かみ(神)と、おに(鬼)と、たま(霊)と、ものとの四つが、代表的なものであつたから、此等に就て、総括的に述べたいと思ふのである。

鬼は怖いもの、神も現今の様に抽象的なものではなくて、もつと畏しいものであつた。今日の様に考へられ出したのは、神自身の向上した為である。たまは眼に見え、輝くもので、形はまるいのである。ものは、極抽象的で、姿は考へないのが普通であつた。此は、平安朝に入つてから、勢力が現れたのである。

おには「鬼」といふ漢字に飜された為に、意味も固定して、人の死んだものが鬼である、と考へられる様になつて了うたのであるが、もとは、どんなものを斥しておにと称したのであらうか。

現今の神々は、初めは低い地位のものだつたのが、次第に高くなつて行つたので、朝廷から神に位を授けられたことを見ても、此は、明らかである。即、神社の神は階級の低いものであつた。土地の精霊は、土地と関係することが深くなるに連れて、位を授けられる様になつて行つたので、其以前の神と言へば即、常世神だつたのである。

常世神とは――此はわたしが仮りに命けた名であるが――海の彼方の常世の国から、年に一度或は数度此国に来る神である。常世神が来る時は、其前提として、祓へをする。後に、陰陽道の様式が這入つてから、祓への前提として、神が現れる様にもなつた。が、常世神は、海の彼方から来るのがほんとうで、此信仰が変化して、山から来る神、空から来る神と言ふ風に、形も変つて行つた。此処に、高天原から降りる神の観念が形づくられて来たのである。今も民間では、神は山の上から来ると考へてゐる処が多い。此等の神は、実は其性質が鬼に近づいて来てゐるのである。

二 祭りに出るおに

折口信夫の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本