TRENDIA CLASSIC
飛鳥寺
薄田泣菫
1 / 3
私が飛鳥の里に來たのは、秋も半ばを過ぎて、そこらの雜木林は金のやうに黄いろく光つてゐた。つい門先の地面を仕切つた、猫の額ほどの畑には、蕎麥の花が白くこぼれてゐた。纖細な、薄紅い鷽の脛のやうな莖が裾をからげたままで、寒さうに立つてゐる。程近い飛鳥神社の木立は、まばらに透いて見え、背伸びをすると、耳無し山が寒さにかじけたやうに背を圓めて、つつ伏してゐるのがついそこに見られる。
見窄らしい安居院の屋根には、疫病やみのやうな鴉が一羽とまつて、をりをり頓狂な聲を出してそこらをきよろきよろ見まはしてゐる。お堂の入口には、野良猫の瘠せかじけたのがだらしなく身體を投げ出して、日向ぼつこをしてゐる。何處かでひゆうひゆうと口笛を吹くやうな渡鳥の聲が聞えてゐたが、それもいつの間にか默つてしまふと、四邊はひつそりしてそこらに散らばつた枯つ葉の寐返り一つ打つ音までが、はつきりと耳に響く……
私は以前何かの基礎だつたらしい、平べつたい石に凭れて、じつとそこらを見まはした。飛鳥の宮や元興寺の跡だといつて、壞れかかつた鐘樓と掘立小屋のやうな御堂の他には、何一つ殘つてゐるのではない。荒廢もかうまでなると、惚れ惚れとむかしをなつかしがらせるやはらかい情調は枯れてしまつて、直ぐに人間と自然との窮極の運命を思はせようといふ、露骨な強迫が見えて來る。
薄田泣菫の他の作品
TRENDIA CLASSIC
石竹
薄田泣菫
石竹
薄田泣菫 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
雨の日に香を燻
く
薄田泣菫
雨の日に香を燻く
薄田泣菫
TRENDIA CLASSIC
石を愛するもの
薄田泣菫
石を愛するもの
薄田泣菫
TRENDIA CLASSIC
贋物
薄田泣菫
贋物
薄田泣菫
TRENDIA CLASSIC
価
薄田泣菫
価
薄田泣菫
TRENDIA CLASSIC
喜光寺
薄田泣菫
喜光寺
薄田泣菫
TRENDIA CLASSIC
茸の香
薄田泣菫
茸の香
薄田泣菫
TRENDIA CLASSIC
器用な言葉の洒
落
薄田泣菫
器用な言葉の洒落
薄田泣菫
TRENDIA CLASSIC
草の親しみ
薄田泣菫
草の親しみ
薄田泣菫
TRENDIA CLASSIC
黒猫
薄田泣菫
黒猫
薄田泣菫
TRENDIA CLASSIC
恋妻であり敵で
あった
薄田泣菫
恋妻であり敵であった
薄田泣菫
TRENDIA CLASSIC
古松研
薄田泣菫
古松研
薄田泣菫