西大寺の伎芸天女
本文約1,700字 ・ 読了時間 約4分
あらすじ(AIが作成しました)
西大寺を訪れた筆者は、小僧の案内で愛染堂の薄暗い御厨子に安置された伎芸天女像と対面する。燐寸の灯火に浮かび上がるその姿を見つめ、技術的な秀逸さよりも、かつて信仰の対象であった佛が現在では虐殺者のような眼差しを向けられる存在へと転落した事実を綴る。偶像破壊という人間の必然的な行為を考察し、蝉や小禽のように人知れず滅びゆく神佛の姿と、それを見つめる自身の複雑な心境をこの随筆は収める。
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私は西大寺をたづねて、一わたり愛染堂の寶物を見終つた。
「寶物はもうこれでお終ひどす。」
と、ぶつきら棒に言ひすてたまま、年つ喰ひの、ちんちくりんな西大寺の小僧は、先へ立つてさつと廊下へ出掛けて行つたが、つとまた後がへりをして、
「あ、忘れとりました。此處におゐでやすのが、伎藝天女さんどす。」
薄闇い片隅に向き直つて、小生意氣に大人のやうにぐつと顎をしやくつて見せる。
それは佛像だの、位牌だの、ごたくさと置き竝べたなかに、煤塗れになつたちつぽけな御厨子で蝶番ひの脱れかかつた隙間から覗いてみると、何やら得態の分らぬ佛體がつくねんと立つてゐる。屈み腰になつてじつと見入らうとするのを、突立つたままもどかしさうに見てゐた小僧は、さすがに氣の毒になつたかして、
「あ、一寸好い事がおすさかい。」
と言つて、すばしこく香盤の側へ飛んで行つたかと思ふと、にこにこもので燐寸を弄くりながら歸つて來た。默つて一本を磨ると、黄いろい光明がぱあつとあたりに射した。
塗の剥れかかつた扉の影を半身に受けながら、輪郭のはつきりした顏が、くつきりと御厨子の暗に浮出して來た。切長の眼は心もち伏目に、ひ弱な火影の煽るに連れて、おどおどした、どうやら少しはにかんだ調子が見える。私はその容子が知人の誰かに似てゐるやうに思つて、まじまじと見入つてゐると、火は容赦なく段々と手元に燃え移つて來たかして、小僧は、
「あつ………………」
と仰山に叫んで、慌てて指につまんだ燃えさしを取り落したので、佛の顏はまたもうす暗い闇ににじみ込んでしまつた。
灯はまた點された。
「どうぞこころもち下げて…………」
と言ふと、小僧は面倒臭いといつた風に、ぐいと手元に押下げる。