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TORENDIA

或る忠告

本文約870字 ・ 読了時間 約2分

あらすじ(AIが作成しました)

家を訪れた一人の詩人が、作家という職業のあり方について厳しい忠告を投げかける。名声や生活の安定に溺れ、世俗的な成功に満足する姿勢を非難し、創作の原点にあったはずの覚悟を問い直す。日常の振る舞いこそが作品に反映されることを説き、作家が背負う重い責任と、明日の計画よりも今日を没我の情熱で生き抜く姿勢の重要性を論じる。文学に向き合う覚悟を失った同業者への痛烈な批判を通じ、正直に生きる厳しさを綴る作品である。

太宰治

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🎧 或る忠告 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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「その作家の日常の生活が、そのまま作品にもあらわれて居ります。ごまかそうたって、それは出来ません。生活以上の作品は書けません。ふやけた生活をしていて、いい作品を書こうたって、それは無理です。

どうやら『文人』の仲間入り出来るようになったのが、そんなに嬉しいのかね。宗匠頭巾をかぶって、『どうも此頃の青年はテニヲハの使用が滅茶で恐れ入りやす。』などは、げろが出そうだ。どうやら『先生』と言われるようになったのが、そんなに嬉しいのかね。八卦見だって、先生と言われています。どうやら、世の中から名士の扱いを受けて、映画の試写やら相撲の招待をもらうのが、そんなに嬉しいのかね。此頃すこしはお金がはいるようになったそうだが、それが、そんなに嬉しいのかね。小説を書かなくたって名士の扱いを受ける道があったでしょう。殊にお金は、他にもうける手段は、いくらでもあったでしょうに。

立身出世かね。小説を書きはじめた時の、あの悲壮ぶった覚悟のほどは、どうなりました。

けちくさいよ。ばかに気取ってるじゃないか。それでも何か、書いたつもりでいるのかね。時評に依ると、お前の心境いよいよ澄み渡ったそうだね、あはは。家庭の幸福か。妻子のあるのは、お前ばかりじゃありませんよ。

図々しいねえ。此頃めっきり色が白くなったじゃないか。万葉を読んでいるんだってね。読者を、あんまり、だまさないで下さい。図に乗って、あんまり人をなめていると、みんなばらしてやりますよ。僕が知らないと思っているのですか。

責任が重いんだぜ。わからないかね。一日一日、責任が重くなっているんだぜ。もっと、まともに苦しもうよ。まともに生き切る努力をしようぜ。明日の生活の計画よりは、きょうの没我のパッションが大事です。戦地に行った人たちの事を考えろ。正直はいつの時代でも、美徳だと思います。ごまかそうたって、だめですよ。明日の立派な覚悟より、きょうの、つたない献身が、いま必要であります。お前たちの責任は重いぜ。」

と或る詩人が、私の家へ来て私に向って言いました。その人は、酒に酔ってはいませんでした。

完

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