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TORENDIA

慾

本文約16,300字 ・ 読了時間 約33分

あらすじ(AIが作成しました)

小料理屋の二階で酒を飲む知友の中江桂一郎と村尾庄司は、それぞれ異なる酔い方の特徴を見せる。村尾は病気で入院していた自身の経験や、自由への葛藤、社会への鬱屈を独白し、中江はそれを聞きながら複雑な表情を浮かべる。やがて現れた芸者の千代次を交え、三者は互いの生活や価値観をめぐり、噛み合わない議論と情緒的なやり取りを繰り返す。それぞれの内面に渦巻く孤独や慾が、酒席の空気の中に静かに交錯していく様を描く。

豊島与志雄

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飲酒家の酔い方には、大体二つの型がある。一つは、外部から酔っていくもので、先ず膝がくずれ、衣服の襟元がだらしなくなり、手付があやしくなり、眼付が乱れ、舌がもつれてくる、がそのくせ、意識はわりに混濁せず、どこかしっかりした理性的心棒が根強く残っている。謂わば、運動神経のみが重にアルコールに侵されるらしい。そしても一つは、内部から酔っていくもので、先ず意識の混濁と分裂が初まり、連想作用が突飛になり、想像が奔放になり、筋途立った思考が出来なくなる、がそのかわりに、姿態はなかなか崩れず、視線もしっかりしているし、言葉もはっきりしているし、儀礼的な訓練か習慣かを――実はそんなものは少しもない場合にも――想像させる。謂わば、意識中枢が先ずアルコールに侵されるらしい。顔が赤くなるのは前者に多く、顔が蒼くなるのは後者に多い。そして人は普通、単なる酒席でなく何か用件を交えた場合、前者に対しては用心の必要を感じないことが多く、後者に対しては用心の必要を感ずることが多いけれど、それは認識の不足で、実は逆に、前者に対して、必要なる場合にはより多く用心しなければならない。

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