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TORENDIA

肉体

本文約13,200字 ・ 読了時間 約27分

あらすじ(AIが作成しました)

同業者仲間の宴会で知り合った芸者のトキエに心惹かれた若旦那は、彼女を落籍させて小さな店を持たせ、男女の関係を築く。二人の間に子供が生まれ、共同生活を送る中で、彼女の何事にも抗わず、全てを安らかな笑顔で受け容れる受動的な態度に、男は言葉にできない苛立ちと不安を募らせる。精神的な繋がりを欠いたまま、肉体的な結びつきのみで離れられなくなった二人の奇妙な関係と、男が抱く孤独な苦悩を描く。

豊島与志雄

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「なんだか……憂欝そうですね。」

さりげなく云われたそういう言葉に、私はふっと、白けきった気持になって、酒の酔もさめて、自分の顔付が頭の中に映ってくることがあります……。私が鏡を見るのは、髯をそる時、髪をなでつける時、まあそんなものですが、それよりももっとはっきりした鏡が頭の中にあって、それに自分の顔付が映ってきます。――頬は酒の酔に赤くほてっているのに、額に薄暗い影がかかっていて、眼尻にいくつも小皺がより、厚い唇がだらしなく開き、そして眼付が、物珍らしそうにきょろきょろあたりを見廻したり、またぼんやり曇ったりします。その全体が……そう……やはり憂欝そうですね。……以前はこんなじゃありませんでした。ついこの頃のことです。

負けた……一言で云えばそういう気持です。しかも、それがばかげていて、どうもやりきれません。

はじめのうちは、私は気にもとめませんでした。万事がすらすらと運んで、聊か得意だったほどです。

たしか……同業者仲間の宴会で、ぱっと、はでな一座……というほどじゃありませんが、まあ気持はそうで、飲む、食う、歌う……じゃんじゃんやっていますなかに、ちょっと、私の眼についた妓がいました。二十一二の、丁度年頃で、背は低いが――私だってこの通り背は低い方ですからね――何の屈託もなさそうな、朗かな、よく笑う女で、それでいて何だかおっとりとしています。額のせまい、丸顔のたちで、美しくはありませんが、歯がきれいで、そして何よりも、眼が……黒目のうわずった、見つめると近視か乱視めいた愛嬌をつくって、変に妖しい色をおびてきます……。人間、うっかりしていますと、妙なところに心を惹かれることがあるものですよ。

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