ジャン・クリストフ
本文約101,900字 ・ 読了時間 約204分
あらすじ(AIが作成しました)
雨の降る夜、祖父ジャン・ミシェルと母ルイザに見守られ、クリストフは生を受ける。父の不誠実や周囲の死といった過酷な現実に直面し、子供らしい無垢さを保ちながらも苦悩を抱える。ある日、ベートーヴェンの音楽に触れたことで、少年は魂を揺さぶる強烈な情熱と嵐のような感情を体験する。音楽の力と自らの内面的な力強さに目覚めた少年は、苦しみや孤独を越えて、自己の魂を確かなものへと伸長させていく。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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いずれの国の人たるを問わず、
苦しみ、闘い、ついには勝つべき、
あらゆる自由なる魂に、捧ぐ。
ロマン・ローラン
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昼告ぐる曙の色ほのかにて、
汝が魂は身内に眠れる時……
――神曲、煉獄の巻、第九章――
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一
うち湿りたる濃き靄の
薄らぎそめて、日の光
おぼろに透し来るごとくに……
――神曲、煉獄の巻、第十七章――
河の水音は家の後ろに高まっている。雨は朝から一日窓に降り注いでいる。窓ガラスの亀裂のはいった片隅には、水の滴りが流れている。昼間の黄ばんだ明るみが消えていって、室内はなま温くどんよりとしている。
赤児は揺籃の中でうごめいている。老人は戸口に木靴を脱ぎすててはいって来たが、歩く拍子に床板が軋ったので、赤児はむずかり出す。母親は寝台の外に身をのり出して、それを賺そうとする。祖父は赤児が夜の暗がりを恐がるといけないと思って、手探りでランプをつける。その光で、祖父ジャン・ミシェル老人の赤ら顔や、硬い白髯や、気むずかしい様子や、鋭い眼付などが、照らし出される。老人は揺籃のそばに寄ってゆく。その外套は雨にぬれた匂いがしている。彼は大きな青い上靴を引きずるようにして足を運ぶ。ルイザは近寄ってはいけないと彼に手真似をする。彼女は白いといってもいいほどの金髪で、顔立はやつれていて、羊のようなやさしい顔には赤痣があり、唇は蒼ざめて厚ぼったく、めったにあわさらず、浮べる微笑もおずおずとしている。彼女は赤児を見守っている――ごく青いぼんやりした眼で、その瞳はきわめて小さいがいたって物優しい。