ジャン・クリストフ
本文約243,500字 ・ 読了時間 約487分
あらすじ(AIが作成しました)
情熱の網を断ち切り、自分自身の主人となるべく孤独を選んだ音楽家ジャン・クリストフは、故郷で敵意や中傷に晒され孤立を深める。芸術への抱負を抱きながらも支持を失った彼は、母の願いを背に、救いを求めて未知の地パリーへと旅立つ。音楽という情熱と内なる葛藤を抱え、荒波のような世の中へと身を投じていく青年が、自らの魂と向き合い、真理を探究しながら成長しようとする物語の導入を描く。
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序
ジャン・クリストフの多少激越なる批評的性格は、相次いで各派の読者に、しばしばその気色を寄せしむるの恐れあることと思うから、予はその物語の新たなる局面に入るに当たって、予が諸友およびジャン・クリストフの諸友に願うが、吾人の批判を決定的のものとみなさないでいただきたい。吾人の思想のおのおのは、吾人の生涯の一瞬間にすぎない。もし生きるということが、おのれの誤謬を正し、おのれの偏見を征服し、おのれの思想と心とを日々に拡大する、というためでないならば、それは吾人になんの役にたとう? 待たれよ! たとい吾人に謬見あろうとも、しばらく許されよ。吾人はみずから謬見あるべきを知っている。そしておのれの誤謬を認むる時には、諸君よりもさらに苛酷にそれをとがむるであろう。日々に吾人は、多少なりとさらに真理に近づかんと努めている。吾人が終末に達する時、諸君は吾人の努力の価値を判断せらるるであろう。古き諺の言うとおり、「死は一生を讃め、夕は一日を讃む。」
一九〇六年十一月ロマン・ローラン [#改丁]
一 流沙
自由!……他人にも自分自身にもとらわれない自由! 一年この方彼をからめていた情熱の網が、にわかに断ち切れたのであった。いかにしてか? それは彼に少しもわからなかった。網の目は彼の生の圧力をささえることができなかった。強健なる性格が、昨日の枯死した包皮を、呼吸を妨ぐる古い魂を、荒々しく裂き捨てる、生長の発作の一つであった。