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TORENDIA

蛸の如きもの

本文約10,000字 ・ 読了時間 約20分

あらすじ(AIが作成しました)

キャバレーやバーを巡る男たちの日常と、その周囲で交錯する女性たちの愛憎を描く。音楽に合わせて踊る客たちを蛸に喩える視点を通し、恋愛の浮き沈みやヒステリー、酒に溺れて泣く男たちの滑稽な姿を写し出す。かつての恋人を重ねる夢と、都市の淀みで感じた閉塞感の中で、語り手は自らもまた蛸のように曖昧な存在であることを自覚していく。移ろいゆく夜の情景と、人々の繋がりや孤独を詩的な筆致で綴る作品である。

豊島与志雄

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――大いなる蛸の如きもの、わが眼に見ゆ。

八本の足をすぼめて立ち、入道頭をふり立て、眼玉をぎょろつかせて、ふらりふらり、ゆらりゆらりと、踊り廻り、その数、十、二十、或るいは三十、音楽のリズムの緩急には殆んど無関係に、淡い赤色の照明の中を、ふらりゆらり、くっついたり離れたり、踊り歩き、音楽が止むと、狭いホールの四方に散り、足をひろげてべたりと屈みこむのである。キャバレー・ルビーの夜のひと時。

「なぜ黙ってるの。」

然し、何をしゃべることがあろう。誰だって、口をつぐんでひっそりしている。或るいは、口を利いてもひそひそと、黙ってるのに等しい。蛸に声が出るものか。口をくうくう鳴らし、吸盤をぴちゃぴちゃさせるだけだ。八本の肢体は足ともなれば腕ともなる。足を組み合せ、腕を組み合せ、または互に絡み合せて、吸盤をぴちゃぴちゃ……。擽ったいじゃないか。穢らわしいじゃないか。そら、バンドがまた始めやがった。こんどは踊りっ娘だ。静かに見ていろ。青い照明になったから、そう邪魔にはなるまい。

「ねえ、おなかが空いたわ。」

今時分、なにを言ってるんだ。だから、女は食うことと眠ることだけだ、と木村に言われるんだ。もっとも、男は飲むことだけだ、と君は言ったが、これも一面の真理には違いない。

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