TRENDIA CLASSIC

バラック居住者への言葉

豊島与志雄

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バラックに住む人々よ、諸君は、バラックの生活によって、云い換えれば、僅かに雨露を凌ぐに足るだけの住居と、飢渇を満すに足るだけの食物と、荒凉たる周囲の灰燼と、殆んど着のみ着のままの自分自身と、其他あらゆる悲惨とによって、初めて人間の生活というものを、本当に知ったに――感じたに違いない。

普通の生活に於ては、諸君の大部分は、生活というものをしみじみと味うことが、可なり少なかったことであろう。金銭や名誉は勿論、其他のいろんな事柄が、諸君の面前に、余りにまざまざと掲げられていたために、自分の生活を本当に感じ味うだけの余裕が、諸君には可なり欠けていたことであろう。所が此度の災禍によって、諸君の眼を惹きつけていたそれら外的な旗幟が、一度に消し飛ばされて、もはや眼を遮るものは何もなくなり、そして諸君の眼はじかに、己の生活の上に据えられたことであろう。

そして諸君は、其処に何を見て取ったか。

その一つは、家庭というものだったに違いない。

家庭――この言葉を吾々は平素余り無責任に取扱いすぎていた。然しながら、今や諸君の眼には、新らしい光に輝らし出された家庭というものが、本当に映ってきたことであろう。同じ家に幾人かの人間が一緒に暮している、というただそれだけのものではない。良人と妻と親と子、心と肉体との通い合った者共が、一つの生活――一つの生活ということが大切なのだ――の中に結び合わされている、そういう家庭なのである。それは全体で一つのものをなしている。その中から誰か一人を取去ることは、一人の人間の身体からどの部分かを取去ることと、殆んど同じであらねばならぬ。家庭全体として、その部分に傷と痛みとを感じ、その部分から血を流すのである。

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