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TORENDIA

聖女人像

本文約13,500字 ・ 読了時間 約27分

あらすじ(AIが作成しました)

心身の不調を理由に療養を続ける主人公は、現実の生活から離れ、独り孤独の深淵へと沈み込んでいく。周囲は健康を案じ結婚を勧めるが、主人公はそれを拒み、自らの内なる精神の聖域を守ろうとする。ある時、大切にしていた箱枕を他人に見られ、激情のあまり周囲を突き放した主人公は、真空のような寂寥感の中で、実在するのか定かではない「清子」の姿を追い求めていく。

豊島与志雄

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深々と、然し霧のように軽く、闇のたれこめている夜……月の光りは固よりなく、星の光りも定かならず、晴曇さえも分からず、そよとの風もなく、木々の葉もみなうなだれ眠っている……そういう真夜中に、はっきりと人の気配のすることがある。どこかで、ガラガラと雨戸を繰る音がする。ただそれきり。どこかで、数音の人声がする。ただそれきり。どこかで、廊下を歩く足音がする。ただそれきり。それきりだが、それ故にまた、深夜の中にくっきりと浮き出るのだ。

私の夢もそれに似ている。茫漠たる眠りの中に、瞬間の形象がくっきりと浮き出す。――海岸の深い淵のなか、水面から僅かにのぞき出てる、苔むした滑らかな巌の上に、誰かがじっとしがみついている。――幾抱えもある巨木の根本に、何を為すでもなく、何を見るでもなく、永遠の彫刻のように、誰かが静かに佇んでいる――。荒野の中を、誰かが歩いている。片方は底知れぬ深い断崖である。もし覗きこめば、視線と共に体まで底へ引きずりこまされそうだ。危い。ただ歩いている。――誰かが呪文のようなことを唱える……大凶と大吉との交叉する一刻だ。悪魔になりたいか、神になりたいか。息をひそめよ、息をひそめよ。

そういう種類の夢を、私はしばしばみる。昼となく夜となく、昏迷に似た眠りのなかに、それらの形象が明瞭に浮き出し、それらを、或は眠りながら、或は眼覚めながら……私は見戌るのである……遂にいずこかへ消え失せてしまうまで。

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