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TORENDIA

現代小説展望

本文約35,000字 ・ 読了時間 約71分

あらすじ(AIが作成しました)

科学や学問が人間の存在とは無関係に成立する一方、芸術は直接的に人間生活を内包し、その具体的表現であると論じる。作中における生活的現実性の重要性を説き、心理学的な解剖に終始する仮想的な描写ではなく、人間の内部世界を描写する新しい文学のあり方を提示する。また、作家が実生活に対し懐疑的である現状を批判し、生活意欲を持って文学を実生活の場へ引き戻すことの必要性を説く論考。

豊島与志雄

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小説の本質

ある科学者がこういうことをいった――「科学に没頭していると人生の煩わしさを……人生そのものをも……忘れてしまう。科学は人生なしに成立する。それが、初めは淋しい気もしたが、この頃では却って嬉しい。」

淋しいか嬉しいか、それは別問題として、実際、科学は人生なしに成立する。人生がなくても……人間がいなくても……二つの点を結びつける線のうちでは直線が一番短いだろうし、空気は酸素や窒素やその他のものから出来てるだろうし、光は一秒間に約三十万キロ走るだろう。そういう事実を見出したのは人間であるが、事実そのものは人間の存在とは何の関係もない。

右のことは、数学や自然科学ばかりでなく、他の学問についてもいえる。肉体の細胞が如何にして癌に変化するかを、医学は説明する。夢の中で頭脳が如何に敏速な活動をなすかを、心理学は証明する。資本主義が如何なる機構の上に立つかを、経済学は解剖する。その他種々。然しながら、人間の肉体的現象が、或は精神的現象が、或は社会的現象が、如何に闡明されようとも、人間の「生きてるという感じ」は――生活感は――なおいえば、生活そのものは――視野の外に残されている。だから少々詭弁めいたいい方をすれば、人間生活がなくてもそれらの学問は成立する。恰度、芸術がなくても美学が成立するように。

こういう分りきったことをいう所以は、芸術は直接に人間生活を内包するということを、ここに断っておきたいからである。直接に生活を内包するというのは、見方を変えれば、生活の直接の現われだといってもよい。

人間生活なしには芸術は成立しない。人間生活のない音楽は単なる音響であり、人間生活のない絵画は単なる色彩である。

「自然」は神の宮にして、生ある柱

時おりに捉えがたなき言葉を漏らす。

人、象徴の森を経て 此処を過ぎ行き

森、なつかしき眼差に 人を眺む。

長き反響の、遙なる遠、奥深き暗き統一の夜のごと光明のごと

広大の無辺の中に、混らうに似て、

聲と 色と 物の音と かたみに答う。

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