本文へ移動
TORENDIA

アンゴウ

本文約11,100字 ・ 読了時間 約23分

あらすじ(AIが作成しました)

矢島は戦死した旧友の蔵書の中に、魚紋書館の用箋に記された暗号を見つける。当初は妻タカ子と旧友の間の不貞を疑い苦悩するが、調査の過程でその暗号が、戦火で行方不明となった幼い二人の子供たちが交わしていた遊びの伝言であったと知る。子供たちが遺した秘密の言葉を解読したことで、矢島は亡き子らとの再会を果たしたかのような深い安らぎと慰めを得ていく。

坂口安吾

🎧 まだ音声版はありません

リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 13

矢島は社用で神田へでるたび、いつもするように、古本屋をのぞいて歩いた。すると、太田亮氏著「日本古代に於ける社会組織の研究」が目についたので、とりあげた。

一度は彼も所蔵したことのある本であるが、出征中戦火でキレイに蔵書を焼き払ってしまった。失われた書物に再会するのはなつかしいから手にとらずにいられなくなるけれども、今さら一冊二冊買い戻してみてもと、買う気持にもならない。そのくせ別れづらくもあり、ほろにがいものだ。

頁をくると、扉に「神尾蔵書」と印がある。見覚えのある印である。戦死した旧友の蔵本に相違ない。彼の留守宅も戦火にやかれ、その未亡人は仙台の実家にもどっている筈であった。

矢島はなつかしさに、その本を買った。社へもどって、ひらいてみると、頁の間から一枚の見覚えのある用箋が現れた。魚紋書館の用箋だ。矢島も神尾も出征まではそこの編輯部につとめていたのだ。紙面には次のように数字だけ記されていた。

[#ここから横組み]

34 14 14

37 1 7

36 4 10

54 11 2

370 1 2

366 2 4

370 1 1

369 3 1

367 9 6

365 10 3

365 10 7

365 11 4

365 10 9

368 6 2

370 10 7

367 6 1

370 4 1

[#ここで横組み終わり]

心覚えに頁を控えたものかと思ったが、同じ数字がそろっているから、そうでもないらしい。まさか暗号ではあるまいが、ヒマな時だから、ふとためす気持になって、三十四頁十四行十四宇目、四字まですゝむと、彼はにわかに緊張した。語をなしているからだ。

「いつもの処にいます七月五日午後三時」

全部でこういう文句になる。あきらかに暗号だ。

神尾は達筆な男であったが、この数字はあまり見事な手蹟じゃなく、どうやら女手らしい様子である。然し、この本が疎開に当って他に売られたにしても、魚紋書館の用箋だから、この暗号が神尾に関係していることは先ず疑いがないようだ。

用箋は四つに折られている。すると彼の恋人からの手紙らしい。

坂口安吾の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本