青玉の十字架
本文約19,800字 ・ 読了時間 約40分
あらすじ(AIが作成しました)
パリー警察の探偵ヴァランタンは、大泥棒フランボーの捕縛を企ててロンドンへ向かう。車中で出会った無害な僧侶ブラウンを気にかけつつも、ヴァランタンはフランボーの行方を追う。道中で意図的に騒ぎを起こし続けるブラウンに翻弄されながらも、ヴァランタンはフランボーが潜伏する場所を突き止める。僧侶という立場を利用し、悪の心理を洞察したブラウンの機転によって、ついに世界を騒がせた大泥棒の正体が暴かれ、ヴァランタンによる逮捕劇が始まる。
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朝の空を彩る銀色のリボンと、同じように海上を飾る緑色のリボンとの中を、船は進んで、ハーウィッチの港に着いた。すると、人々は蝿の群でもあるかのように、ちりぢりに各々目ざす方へと散って行った。その中に、今我々が語ろうとする男は、別に特別に注意を惹くものではなかったし――というよりも、注意を惹かれまいとしているのだった。彼の身のまわりには、祭りの日のような陽気さの中に、顔に浮んだ役人じみたもっともらしさがあるだけで別に注意すべきものは何もなかった。彼の服装はと言えば、うすい灰白色の短衣に純白のチョッキをつけ、青鼠色のリボンのついた銀色に光る麦藁帽を冠っていた。その対照で[#「対照で」は底本では「対象で」]、彼の面長の顔は黒味を帯びていたし、スペイン人のような、無雑作な黒い髯をつけているのが、エリザベス朝時代の頸飾を思わせた。彼はいかにも怠け者が重大事件にぶつかったとでもいうような格恰で巻煙草をふかしていた。要するに、彼の風態のうちにはその灰色の短衣が装填された拳銃をかくし、白いチョッキが警察章をかくし、またその麦藁帽が、ヨーロッパ中で最も有力な智能の一つをかくしていることを香わすような何ものもなかったのだ。しかり、この男こそ別人ならず、パリー警察界の頭、世界に名だたる検察官、ヴァランタンであったのだ。そして彼は、今、ブラッセルからロンドンへと、今世紀における最大の捕物をするために、乗り込んで行くところであったのだ。
フランボーは英国に居たのだ。三ヶ国(仏、白、英)の官憲は、この大賊を、遂にガンからブラッセルへ、ブラッセルからオランダへと追跡したのだった。そして、その時ちょうどロンドンで開かれていた聖晩餐大会の人目に立ちそうもない混雑に紛れて何か仕事をするだろうと当りをつけたのだ。おそらく彼は、その大会に関係した何か事務員か書記のようなものに化け込んで旅行するに違いないのだった。とは言え、ヴァランタンにおいても、もちろん、それが確実にわかっている訳ではなし、誰しもフランボーをつきとめることは出来なかったのだ。