作男・ゴーの名誉
本文約15,100字 ・ 読了時間 約31分
あらすじ(AIが作成しました)
嵐吹くスコットランドの谷間で、師父ブラウンは奇妙なグレンジル城を訪れる。城主の伯爵が失踪し、死の報が流れる中、唯一の召使である聾の作男ゴーが主人の遺骸を埋葬していた。城内では不可解な品々が蒐集され、伯爵の遺言と正直すぎる若者の歪な関係が浮かび上がる。ブラウンは墓地の発掘と一連の出来事を通じて、人間に対する極端な不信と信頼が交錯する伯爵の狂気的な試みと、その信念に縛られた若者の奇妙な行動を解き明かしていく。
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一
嵐吹く銀緑色の夕方、灰色のスコッチ縞の着衣につつまれた師父ブラウンは、灰色のスコットランドのある谷間の涯に来た、そして奇妙なグレンジル城を仰ぎ見た。城はその窪地の一方の端を袋町のように塞いでいた、それがまた世界の涯のように見えた。嶮しい屋根や海緑色の石盤瓦茸小塔の聳え具合が仏蘭西蘇格蘭折衷式の城の様式なので、城は師父ブラウンのような英蘭人にはお伽話に出て来る魔女のかぶる陰険な尖り帽を思い出させるのであった。そして周囲にゆらいでいる松林は小塔の緑色と対比して無数の渡鳥の群のように黒く見えた。こうした人を夢幻の世界か、または睡たげな魔界のような雰囲気の中に惹込むのは、ただこの景物ばかりがさせる技ではなかった、なぜならば、スコットランドの貴族の家柄に、人間並をはるかに越して濃厚に纏綿しているところの高慢と狂気と不思議な悲哀との雲がここにも絡みついているからであった。スコットランドは遺伝という毒薬を二服持っている、貴族という血の意識とカルヴィン教徒の因襲の意識とがそれだ。
坊さんはグラスゴーまで用事があって来たので、今一日を割いて、友人なる素人探偵フランボーに会いにやって来たのであった。フランボーは最近伝えられたグレンジル伯の死説の真偽を確めるために今一人警察の本職探偵と倫敦からやって来てこのグレンジル城に滞在していた。疑問の人物グレンジル伯は十六世紀の昔、国内の心根の曲った貴族の間においても、剛勇と乱心とたけだけしい奸智とで彼等を縮み上らせた種族の最後の代表者ともいうべき男であった。