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TORENDIA

正午の殺人

本文約13,800字 ・ 読了時間 約28分

あらすじ(AIが作成しました)

流行作家神田兵太郎の連載を受け持つ新聞記者矢部文作は、取材のため日々神田邸へ通う。ある日、神田の邸宅で不審な死が起こり、居合わせた雑誌記者安川久子が疑いの目を向けられる。現場に不可解な点が残る中、巨勢博士は久子の証言を検証することで、犯人の巧妙なアリバイ工作とテープレコーダーを用いた偽装工作を看破する。文作は真実を求めて奔走し、やがて同棲相手である毛利アケミによる神田殺害の全貌を明らかにする。

坂口安吾

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郊外電車がF駅についたのが十一時三十五分。このF行きは始発から終発まで三十分間隔になっていて、次の到着は十二時五分。それだと〆切の時間が心配になる。

「あと、五十日か」

文作は電車を降りて溜息をもらした。流行作家神田兵太郎が文作の新聞に連載小説を書きはじめてから百回ぐらいになる。約束の百五十回を終るまでは、毎日同じ時間にFまで日参しなければならぬ。駅から神田の家までは十分かかった。

前方を洋装の若い女が歩いて行く。

「どうやら、あの人も神田通いだな」

と文作は直感した。畑の道を丘に突当ると神社がある。そこから丘へ登りつめると、神田兵太郎の家である。近所には他に一軒もないという不便なところだ。

神社の前で女が立ちどまって何か迷っている様子であった。追いついた文作は迷わず話しかけた。

「神田さんへいらッしゃるんでしょう」

「ハ?」

「神田さんはここを曲って丘の上ですよ」

「ハア。存じております」

「そうですか。どうも、失礼」

文作は一礼すると泡をくらッて丘の道を登りはじめた。なぜかというと、かの女性が年歯二十一二、驚くべき美貌であったからである。

「おどろいたなア。神田通いの人種の中にあんな可愛い子がいるのかねえ。まさにミス・ニッポンの貫禄じゃないか。典型的な美貌とはまさに彼女じゃないか。整いすぎて、すこし冷いかな。第一、オレに素ッ気なくするようじゃ、目が低いな」

神田通いの婦人ジャーナリストの中に安川久子という美貌の雑誌記者がいることは記者仲間に知られていたが、あるいはその人かも知れない。流行作家といっても、神田兵太郎は著書が何十万と売れる流行作家で、毎月たくさん書きまくる流行作家ではなかった。したがって、彼に原稿を書かせるのは容易じゃないが、ちかごろ婦人雑誌の一ツが彼の原稿を毎月欠かさず載せている。それは安川久子という美貌の婦人記者を差し向けてからの話と伝えられている。

「神田兵太郎もワケの分らない先生さ。性的不能者という話もあれば、男色という話もある。とたんに美人記者が成功するんだから、何が何だか分りやしねえや」

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