TORENDIA
夕凪と夕風
寺田寅彦
TORENDIA
夕凪と夕風
本文約2,200字 ・ 読了時間 約5分
あらすじ(AIが作成しました)
高知の名物である夕凪を軸に、その気象学的な発生要因を科学的に考察し、夏の詩的な情景として綴る。地方的季節風と海陸軟風の合成という観点から、なぜ瀬戸内海沿岸で夕凪が著しく、東京では涼しい夕風が吹くのかを統計的に分析する。自然現象の背後にある規則性を解き明かしつつ、不確実な情勢を「浮世の風」になぞらえ、予測困難な未来への思索へと展開していく。気象の物理的メカニズムと情緒的な風土の描写を融合させた随筆である。
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夕凪は郷里高知の名物の一つである。しかしこの名物は実は他国にも方々にあって、特に瀬戸内海沿岸にこれが著しいようである。そうして国々で○○の夕凪、□□の夕凪といって他の名物を自慢するように自慢にしているらしい。普通は特有な好いものを自慢にするのだが、たまにはあまりよくない特色を自慢する場合もあるのである。
アインシュタインが有名になりかけたころ、方々の国々で、彼は自分の国の出身であるといっていい争ったことがあった。そのときアインシュタインが「もし私が bte noire だったらこんなことはあるまい」といって皮肉に笑ったそうである。なるほど弓削道鏡が自分の同郷出身だといって自慢する人はあまりないかもしれないが、しかし石川五右衛門の同郷者だといってシニカルな自慢を振り廻す人はあるかもしれない。
それはとにかく、暑い国の夏の夕凪は、その肉体的効果から見ればたしかに、ベート・ノアルであるが、しかしそれが季節的自然現象であるだけにかなりに多彩な詩的題材を豊富に包蔵していることも事実である。
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