TRENDIA CLASSIC

絶景万国博覧会

小栗虫太郎

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一、尾彦楼の寮に住む三人のこと

並びに老遊女二つの雛段を飾ること

なんにしろ明治四十一年の事とて、その頃は、当今の接庇雑踏とは異なり、入谷田圃にも、何処かもの鄙びた土堤の悌が残っていた。遠見の北廓を書割にして、茅葺屋根の農家がまだ四五軒も残っていて、いずれも同じ枯竹垣を結び繞らし、その間には、用水堀や堰の跡などもあろうと云った情景。わけても、田圃の不動堂が、延宝の昔以来の姿をとどめていた頃の事であるから、数奇を凝らした尾彦楼の寮でさえも、鳥渡見だけだと、何処からか花鋏の音でも聴えて来そうであって……、如何さま富有な植木屋が朝顔作りとしか、思われない。

その日は三月三日――いやに底冷えがして、いつか雪でも催しそうな空合だった。が、そのような宵節句にお定まりの天候と云うものは、また妙に、人肌や暖もりが恋しくなるものである。まして結綿や唐人髷などに結った娘達が、四五人雪洞の下に集い寄って、真赤な桜炭の上で手と手が寄り添い、玉かんざしや箱せこの垂れが星のように燦めいている――とでも云えば、その眩まんばかりの媚めかしさは、まことに夢の中の花でもあろうか。そこに弾んでいるのが役者の噂でなくとも、又となく華やかな、美くしいものに相違ないのである。所が、尾彦楼の中には、日没が近付くにつれて、何処からともなく、物怯じのした陰鬱なものが這い出して来た。と云うのは、その夕、光子のものに加えて、更にもう一つの雛段が、飾られねばならなかったからだ。

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