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TORENDIA

血液型殺人事件

本文約35,000字 ・ 読了時間 約70分

あらすじ(AIが作成しました)

毛沼博士が変死し、警察は過失によるガス中毒と判断する。博士を自宅まで送った医学生の鵜澤は、恩師笠神博士夫妻が遺した遺書を一年間封印し、その後公表する。そこには、過去の因縁に基づく博士への復讐と、鵜澤自身の出生にまつわる秘密が綴られていた。鵜澤は恩師の遺書をたどり、不審な点の真相と、冷酷な計画が隠されていた過去の事件の深淵を追い始める。

甲賀三郎

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忍苦一年

毛沼博士の変死事件は、今でも時々夢に見て、魘されるほど薄気味の悪い出来事だった。それから僅に一月経たないうちに、父とも仰ぐ恩師笠神博士夫妻が、思いがけない自殺を遂げられた時には、私は驚きを通り越して、魂が抜けたようになって終い、涙も出ないのだった。漸くに気を取直して、博士が私に宛てられた唯一の遺書を読むと、私は忽ち奈落の底に突落されたような絶望を感じた。私は直ぐにも博士夫妻の後を追って、この世に暇をしようとしたが、辛うじて思い止ったのだった。

その当時私は警察当局からも、新聞記者諸君からも、どんなに酷しく遺書の発表を迫られたか分らぬ。然し、私は堅く博士の遺志を守って、一年経たなければ公表が出来ないと、最後まで頑張り通した。その為に私は世間からどれほどの誤解を受けた事であろう。而しそれは仕方がなかったのだ。

こうして、私にとっては辛いとも遣瀬ないとも、悲しいともいら立しいとも、何ともいいようのない忍苦の一年は過ぎた。

恩師笠神博士夫妻の一周忌を迎えて、ここに公然と博士の遺書を発表することを許され、私は長い間の心の重荷を、せめて一部分だけでも軽くすることが出来て、どんなにホッとしたか分らぬ。

以下私は博士の遺書を発表するに先立って、順序として、毛沼博士の変死事件から始める事にしよう。

毛沼博士の変死

二月十一日、即ち紀元節の日だが、この日はひどく寒く、午前六時に零下五度三分という、東京地方には稀な低温だった。私は前夜の飲過ぎと、学校が休みなのと、そのひどい寒さと、三拍子揃った原因から、すっぽり頭から蒲団を被って、九時が過ぎるのも知らずにいた。

「鵜澤さん」

不意に枕許で呼ぶ声がするので、ひょいと頭を上げると、下宿のおかみが蒼い顔をして、疑り深かそうな眼で、じッとこちらを見詰めている。どうも只ならぬ気色なので、私は寒いのも忘れて、むっくり起き上った。

「何か用ですか」

すると、おかみは返辞の代りに、手に持っていた名刺を差出した。何より前に私の眼を打ったのは、S警察署刑事という肩書だった。

「ど、どうしたんですか」

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