愛人と厭人
本文約4,100字 ・ 読了時間 約9分
あらすじ(AIが作成しました)
有島武郎の「惜みなく愛は奪ふ」を契機に、人間が抱く愛と憎悪、そして生きることへの執着を論じる。著者は現代の文壇に溢れる人道主義的傾向や道徳観念を批判し、世俗を嫌悪する心の中にこそ、生命への深い根源的な肯定があると説く。善悪の二元論を越え、厭人という苦い感情を通じて自己の存在を確立しようとする精神の苦闘を綴り、生きるという衝動そのものが持つ矛盾と力強さを明らかにする。
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有島武郎君の「惜みなく愛は奪ふ」は出版されるや否や非常な売れ行きであるさうな。しかし売れ行きといふことが直にその本の真価を示すものではないと同時に、売れ行く本は直に俗受けのものと独断して、文壇の正系(?)が之を無視するのはよくないことだ。過般有島君の芸術を通じてその生活を一般が云々することについて、中央文学に一寸書いた時、「三部曲」の批評が出なかつたことを指摘して置いたが、此本の「後書」を見ると、矢張りあの書に対する批評は賀川氏ものゝみが只一つ公にされたつきりであつたさうな。自分は武郎君の門下でもなければ、乾分でもないのだから、敢て阿諛をつかつて彼是言はねばならぬ義務は持たぬが、当然問題となるべき「三部曲」の批評が一つも文学雑誌――少なくとも文芸をその要素の一つとする雑誌や新聞に、殆ど一言半句ものせられなかつた不公正に対して、自分は親友としては勿論、仮りに無関係な立場にある人としても非常に遺憾とするものである。従つて今度出た「惜みなく愛は奪ふ」は武郎君が五ヶ年の心血を注いで、その思想上の頂点を為すものと言はれてゐるだけに、決して同一の不公正が行はれはすまいと思ひながらも、又一方にはなほその懸念がないでもない。願はくは之は自分の杞憂であつて呉れゝばいゝが。