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TORENDIA

玉突の賦

本文約2,400字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

冬の夜、玉突き場に居合わせた語り手の男は、無銭遊興を疑う相手の男と対戦する。緑色の羅紗の上で白玉と赤玉が交錯する中、ゲーム取りのおきみちやんや湯上りのお神さんが見守る中での高度な球戯の応酬を描く。しかし、相手の巧みな技に翻弄され、玉突きに夢中だった自らの日常も崩れ去るような虚しさを覚えた男は、勝負の後に店を飛び出し、冷え込む夜道で玉突きへの決別を誓いつつ、やり場のない自尊心と寂しさを抱えて街を歩き去る。

岸田國士

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🎧 玉突の賦 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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「いくつお突きなります」

「さあ、しばらく突かないんですが……」

玉突く男は曲者。

三十? 四十? 五十? …………

「ぢや、百にして見て下さい」

――こいつ、百なもんか!

「どうぞ」

「さうですか」

コツン、コツリン……。

――ふたあつ……。

コチツ、ポツン……。

――ふたつ当り……。

やれ、やれ。

「しつかりおやんなさいよ」――ゲーム取りのおきみちやんが眼で怒鳴る。

まづ、煙草を一ぷく。

――いつうつ…………なゝあつ…………とおお…………十三…………十六…………

おれは時間を空費してゐる。

こいつは上等な××タマだ。

厚く当れば開く。

薄く舐めれば棒になる。

押せば狂ふ。

引けば逃げる。

こいつは上等な××タマだ。

が、扨て、弱つた。

そつと空クシヨン。

――よせ、よせ。

軽くマツセ。

――あぶない。

えゝい、まゝよ、ピチン。

くそ、ミツスか。

「おきみちやん、ぼく、あといくつ?」

「まだ一本返りません」

「むかうさんは?」

「十八ゲーム」

「むかうさんも、お当りにならないな」

「おつと、そこには、お茶碗があつてよ」

「大まわし…………」

「いや、まづ、こつちから…………」

こいつ、きたたい[#「きたたい」はママ]。

「引つ張つた!」

「先玉が帰つて来ない」

うそつけ。

「当りゲーム」

「どうぞ」

「失礼」

なんだ、あの腰つきは。

おきみちやんが、鉛筆をしやぶり出した。

「百ぢや、少しお強かない、この方?」

おきみちやん、察してくれ。

おれも男だ。

おまへは女だ。

おきみちやん、この方は泥棒だよ。

牧場のやうな緑色の羅紗の上を、魂のやうに、白玉と赤玉とが、緩く、速く、思ひ思ひの方角に走つて行く。

電燈がつけば、ぱツと象牙の肌が光る。

おきみちやんが、しびれた股のあたりを撫ではじめる。

水色の襟に囲まれた、その三角の胸が波をうつ。

「もう一度いかゞ」

男と男とは、敵意と友情とをほどよく交へた眼で、さりげなく笑ひ合ふ。

「いざ」

「いざ」

棒を取つて立ち上る。

この槍で、あの胸元を、やツと一と突き。

待て、待て、チヨークがついてない。

「どうぞ」

「お先へ」

無銭遊興者の後姿は寂しい。

彼も遂に、道楽の味を解しないと見える。

そして、このおれに、二度頭を下げた彼

憫れむべき無銭遊興者、この野郎!

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