まちそとの森に、いっぽん、とてもかわいらしい、もみの木がありました。そのもみの木は、いいところにはえていて、日あたりはよく、風とおしも十分で、ちかくには、おなかまの大きなもみの木や、はりもみの木が、ぐるりを、とりまいていました。でもこの小さなもみの木は、ただもう大きくなりたいと、そればっかりねがっていました。ですから森のなかであたたかいお日さまの光のあたっていることや、すずしい風の吹くことなどは、なんともおもっていませんでした。また黒いちごや、オランダいちごをつみにきて、そこいらじゅうおもしろそうにかけまわって、べちゃくちゃおしゃべりしている百姓のこどもたちも、気にかからないようでした。こどもたちは、つぼいっぱい、いちごにしてしまうと、そのあとのいちごは、わらでつないで、ほっとして、小さいもみの木のそばに、腰をおろしました。そして
「やあ、ずいぶんかわいいもみの木だなあ。」
と、いいいいしました。けれど、そんなことをいわれるのが、このもみの木は、いやで、いやで、なりませんでした。
つぎの年、もみの木は新芽ひとつだけはっきりのび、そのつぎの年には、つづいてまた芽ひとつだけ大きくなりました。そんなふうで、もみの木の歳は、まいねんふえてゆく節のかずを、かぞえて見ればわかりました。
小さいもみの木は、ためいきをついて、こういいました。
「わたしも、ほかの木のように大きかったら、さぞいいだろうなあ。そうすれば、枝をうんとのばして、たかい梢の上から、ひろい世のなかを、見わたすんだけど。そうなれば、鳥はわたしの枝に巣をかけるだろうし、風がふけば、ほかの木のように、わたしも、おうように、こっくりこっくりしてみせてやるのだがなあ。」
こんなふうでしたから、もみの木は、お日さまの光を見ても、とぶ鳥を見ても、それから、あさゆう、頭の上をすうすうながれていく、ばらいろの雲を見ても、ちっともうれしくありませんでした。