続言葉言葉言葉(その一)
本文約4,500字 ・ 読了時間 約10分
あらすじ(AIが作成しました)
頭の中に巣食う「もやもやした考え」を吐き出すため、作者は戯曲に似た形式で「風俗時評」を執筆する。本書は、文学の枠を超えて、現代日本人の精神的な堕落、官尊民卑や金力万能といった弊風、そして大衆の生活に蔓延する悪趣味や卑俗な現象を批評する。社会の様相を冷徹に見つめ、日本民族の未来を憂う中で、諷刺文学が持つ困難と意義を模索し、一つの喜劇的主題を見出していく過程を綴る論考である。
💰 この本を応援する(投げ銭)
私は嘗て、「何かを云ふために戯曲を書くのではない。戯曲を書くために何かしらを云ふのだ」と揚言し、自分の戯曲文学に対する熱情と抱負とを、明かにしたつもりである。
その態度は最近まで変らずに持ちつづけてゐた。そして、それは、少しも誤つた態度ではないと今でも信じてゐるが、たまたま、近頃になつて「戯曲を書くため」に、なんだか邪魔になつてしかたがない「もやもやした考へ」が、頭のなかに巣喰つてしまつたのを感じ出した。
この「もやもやした考へ」は、いかに努力をしても追ひ払ふことはできない。固より雑誌の締切に追はれてではあるが、どれ、一つ書き出さうかと机に向ひ、あれこれと主題を択び、人物の風貌を頭に描いてみてゐるうちに、いつの間にかその「もやもやした考へ」が、道具もそろはない舞台の上を占領して、勝手な芝居をしはじめるのである。
私は、その都度ペンを投げ出して、煙草に火をつける。煙のなかに私の夢は吸ひ込まれて、あとには、しびれたやうな頭と、愚にもつかない胸さわぎが残る。腎臓病のせいか、狂気になる前兆か、それとも所謂詩藻の涸渇か、こいつは、なんにしても面白くない現象だ。
言を左右に托して、編輯者に勘弁してくれるやうに頼む。いや、勘弁せぬ。どうしても駄目か? どうしても駄目だ。よし、それならといふので、夜を徹して、その「もやもやした考へ」を手あたり次第に書きなぐつてみた。会話といふ形式は、書きなぐりに適したものかどうか、つひ、戯曲をといふ先入感があるので、それに似た形式になつてしまふ。
私は、苟も文学をやる人間が、そんな出鱈目な仕事をしていいとは思はない。読み返すのも恥かしいやうな文章だ。
が、それにも拘はらず、初めて「何かを云ふために」書いた、この戯曲ならざる戯曲「風俗時評」は、私の十年に余る文学生活を通じて、未だ嘗て遭遇したことのない反響を呼び得たのである。