アトリエの印象
本文約3,000字 ・ 読了時間 約6分
あらすじ(AIが作成しました)
巴里滞在中に識り合った画家たちの仕事ぶりや生活を振り返り、自身の専門である執筆業との違いを考察する随筆。画家が楽しげに創作に励む姿、モデルや自身の作品と日常的に向き合う環境、そしてアトリエで目撃した日常的な光景を通じて、美術家特有の感性や空間の在り方を綴る。筆者は、自身の文士としての書斎とアトリエの対照的な空気感に触れながら、絵画に向かう姿勢やモデルとの関係性について独自の視点で論じている。
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私は巴里滞在中、二三の画家諸君と識り合ひになり、ちよいちよいアトリエを訪ねるやうなこともあつたが、いつでもその仕事振り、生活振りに多大の興味を惹かれた。
第一に、いかにも楽しさうに仕事をしてゐる。母親が娘に晴着を著せてゐるやうだともいへるし、子供がお土産に貰つた寄木細工を弄んでゐるやうだともいへ、或はまた、酒飲みが晩酌の膳に向つたやうでもあり、善良な夫が細君の独唱を聴いてゐるやうでもある。
第二に、訪問者の相手をしながら、平気でカンスに向ひ、それでさほど煩はされもせず、訪問者も一向退屈しないといふことである。これは人によつても違ふのだらうが、さういふところは、われわれ原稿紙に向つて字を埋めて行く商売とは甚だ隔りがある。
――どうだい、この絵は……
――面白いね。
話は甚だよくわかる。われわれの方では、さうは行かない。
――今、一寸したものを書きかけてるんだ。
――どこへ出すの?
――頼まれたもんだから、仕方なしに書いてるんだ。方面違ひの美術雑誌さ。
――へえ、脚本かい。
――ううん、なんでもいいつて云ふから、なんでもないことをだらだら書いてるんだ。
――随筆だね。随筆の筋なんてものはないかもしれないが、一体どういふことを書くつもりだい。
――書いて見なけれやわからんよ。
……………………………………
結局、話題を他に移すより外はない。実際われわれが机に向つてゐるのを、人は手紙を書いてゐるくらゐにしか思はないらしい。その証拠に、少し待つてくれと云ふと、五分も待てば十分だといふやうな顔をしてゐる。