TRENDIA CLASSIC

アトリエの印象

岸田國士

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私は巴里滞在中、二三の画家諸君と識り合ひになり、ちよいちよいアトリエを訪ねるやうなこともあつたが、いつでもその仕事振り、生活振りに多大の興味を惹かれた。

第一に、いかにも楽しさうに仕事をしてゐる。母親が娘に晴着を著せてゐるやうだともいへるし、子供がお土産に貰つた寄木細工を弄んでゐるやうだともいへ、或はまた、酒飲みが晩酌の膳に向つたやうでもあり、善良な夫が細君の独唱を聴いてゐるやうでもある。

第二に、訪問者の相手をしながら、平気でカンスに向ひ、それでさほど煩はされもせず、訪問者も一向退屈しないといふことである。これは人によつても違ふのだらうが、さういふところは、われわれ原稿紙に向つて字を埋めて行く商売とは甚だ隔りがある。

――どうだい、この絵は……

――面白いね。

話は甚だよくわかる。われわれの方では、さうは行かない。

――今、一寸したものを書きかけてるんだ。

――どこへ出すの?

――頼まれたもんだから、仕方なしに書いてるんだ。方面違ひの美術雑誌さ。

――へえ、脚本かい。

――ううん、なんでもいいつて云ふから、なんでもないことをだらだら書いてるんだ。

――随筆だね。随筆の筋なんてものはないかもしれないが、一体どういふことを書くつもりだい。

――書いて見なけれやわからんよ。

……………………………………

結局、話題を他に移すより外はない。実際われわれが机に向つてゐるのを、人は手紙を書いてゐるくらゐにしか思はないらしい。その証拠に、少し待つてくれと云ふと、五分も待てば十分だといふやうな顔をしてゐる。

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