主なる人物
笠原平造 四十六才
妻たけ子 四十二才
長男政一 二十三才
娘 富子 二十才
次男圭次 八才
北野良作 四十五才
安田某 二十六才
此の「物語」は、特別の指定以外、どの部分を画面で表し、どの部分を字幕で、また、どの部分を「説明」で補はうとも、それは監督の自由である。たゞ、各場面々々の印象を、映画的に活かして貰へばいゝ。
[#改ページ]
第一巻
1
古ぼけた柱時計が大きく映る。針が零時十五分を指してゐる。 捩子を持つた男の右手が現はれる。時計を捲き始める。針を九時に直す。 振子を振つて見るが、すぐ止まつてしまふ。
2
時計の内部が映る。ゼンマイが外れる。 そのゼンマイが、幕一杯に大きく映る。そして、今度は、それが急速度で廻転し始める。すると、その中心から、白い華車な女の右手が現はれる。人差指を出して、何かを指し示してゐる。 此の画面が次第に消えて、次の情景が写し出される。
3
笠原平造は、日当のいゝ椽先にあぐらをかいて、一心に小刀を動かしてゐる。見ると、玩具の船が出来かけてゐる。傍らに、圭次が、おとなしくそれを見てゐる。もう、帆をかけるばかりである。 妻のたけ子は庭の一隅で張物をしてゐる。 船ができ上つたので、平造は盥に水を入れて、それを浮かして見る。圭次がよく遊んでゐるのを見て、平造は鶏小屋に近づく。金網の破れたところを繕ふ。 富子は母に何かせがんでゐる様子である。 ――お父さん、富子が、お友達のとこへ行きたいつて云ひますよ。 平造の慈愛と威厳とを無器用に交へた表情。 ――今日はやめとけ。後でお客さんがあるから……。 富子の不服らしい顔附。 母親の富子をたしなめてゐる様子。 平造は、娘の気を惹くやうに、 ――安田が、また、トランプをしに来るつて云つとつた。 富子、相変らず不機嫌である。しかし、どうにもならないことを知ると、急に、何もなかつたやうな顔して、奥に姿を消す。 平造は、鶏小屋を離れると、今度は、花壇の方へ歩を運ぶ。草花の新芽がのびてゐる。それに、軽く指をふれながら、誰に云ふともなく、 ――今年は芍薬がよく出た。
4