TRENDIA CLASSIC

驟雨(一幕)

岸田國士

1 / 13

人物

朋子

恒子

家政婦

時  六月の午後

所  洋風の客間を兼ねた書斎

[#改ページ]

朋子が割烹着を脱ぎながら、慌ただしくはひつて来る。その後から、家政婦が、何か云ひたさうにしてついて来る。

朋子  さうよ、あれはあれでいゝの。(割烹着を家政婦に渡し、机の前に坐る)あと、ハンケチだけでせう。暇を見て、しといて頂戴。こがさないやうにね。あゝ、それから……その前に一寸お使ひに行つて来てくれない。そこの八百屋に苺が出てるかどうか見て、若し、出てゝも良いのがなかつたら、駅の前まで行つてね。上等のを一箱取つて来て……。 家政婦  おいくらぐらゐのを……。 朋子  いくらでもいゝことよ、良いのでさへあれや……。(ペンを取り上げ、抽斗をさがしながら)あたし一寸、端書を書くから、それも序に入れて来るのよ。さ、支度をして頂戴。(端書を書く)えゝと……。

(家政婦去る。長い間)

朋子  あ、芳沢さん……、今朝来た端書を此処へ一寸……。状差に差してあるでせう、絵端書よ。 家政婦  (端書を持つて来る)これで御座いますか。 朋子  (見ずに受け取り)えゝ、それ……。(見て)これぢやないの。今朝来たのがあるでせう。(笑ひながら)いやね、これは……。

(家政婦、これも笑ひながら去る)

海岸の写真よ、蒲郡つて書いてある……

家政婦  (絵葉書を見ながら現る) 朋子  (引つたくるやうに)どら……。えゝ、これよ。(間)――「二人とも、大層気に入り、四五日逗留の予定……」か。 家政婦  は? 朋子  こつちのこと……。早く支度して頂戴。

(家政婦去る)

岸田國士の他の作品