TRENDIA CLASSIC

行乞記

種田山頭火

1 / 93

このみちや

いくたりゆきし

われはけふゆく

しづけさは

死ぬるばかりの

水がながれて

九月九日 晴、八代町、萩原塘、吾妻屋(三五・中)

私はまた旅に出た、愚かな旅人として放浪するより外に私の行き方はないのだ。

七時の汽車で宇土へ、宿においてあつた荷物を受取つて、九時の汽車で更に八代へ、宿をきめてから、十一時より三時まで市街行乞、夜は餞別のゲルトを飲みつくした。

同宿四人、無駄話がとり/″\に面白かつた、殊に宇部の乞食爺さんの話、球磨の百万長者の慾深い話などは興味深いものであつた。

九月十日 晴、二百廿日、行程三里、日奈久温泉、織屋(四〇・上)

午前中八代町行乞、午後は重い足をひきずつて日奈久へ、いつぞや宇土で同宿したお遍路さん夫婦とまたいつしよになつた。

方々の友へ久振に――ほんたうに久振に――音信する、その中に、――

……私は所詮、乞食坊主以外の何物でもないことを再発見して、また旅へ出ました、……歩けるだけ歩きます、行けるところまで行きます。

温泉はよい、ほんたうによい、こゝは山もよし海もよし、出来ることなら滞在したいのだが、――いや一生動きたくないのだが(それほど私は労れてゐるのだ)。

九月十一日 晴、滞在。

午前中行乞、午後は休養、此宿は夫婦揃つて好人物で、一泊四十銭では勿躰ないほどである。

九月十二日 晴、休養。

入浴、雑談、横臥、漫読、夜は同宿の若い人と共に活動見物、あんまりいろ/\の事が考へ出されるから。

九月十三日 曇、時雨、佐敷町、川端屋(四〇・上)

八時出発、二見まで歩く、一里ばかり、九時の汽車で佐敷へ、三時間行乞、やつと食べて泊るだけいたゞいた。

此宿もよい、爺さん婆さん息子さんみんな深切だつた。

夜は早く寝る、脚気が悪くて何をする元気もない。

九月十四日 晴、朝夕の涼しさ、日中の暑さ、人吉町、宮川屋(三五・上)

球磨川づたひに五里歩いた、水も山もうつくしかつた、筧の水を何杯飲んだことだらう。

一勝地で泊るつもりだつたが、汽車でこゝまで来た、やつぱりさみしい、さみしい。

郵便局で留置の書信七通受取る、友の温情は何物よりも嬉しい、読んでゐるうちにほろりとする。

種田山頭火の他の作品