行乞記
本文約9,700字 ・ 読了時間 約20分
あらすじ(AIが作成しました)
種田山頭火による本作は、俳人が自ら鉄鉢を手に托鉢行脚を行う旅の記録を綴る。各地を雲のように流れ、風のように去る日々の中で、自然の美しさや人々の営みに触れ、行乞という過酷な生活を通じて自己を見つめる様子を描く。酒や句作、そして道中で出会う人々との交流をありのままに記録し、窮乏しながらも自由を求める生き方と、日々の心象風景を率直な言葉で記した旅の随筆である。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
💰 この本を応援する(投げ銭)
一鉢千家飯
山頭火
□春風の鉢の子一つ
□秋風の鉄鉢を持つ
雲の如く行き
水の如く歩み
風の如く去る
一切空
五月十三日 (室積行乞)
まだ明けないけれど起きる、まづ日暦を今日の一枚めくり捨てゝから空模様を見る、有明月の明るさが好晴を保證してゐる。
今日はいよ/\行乞の旅へ旅立つ日だ。
いろんな事に手間取つて出かけるとき六時のサイレン。
汽車賃が足らないから、幸にして、或は不幸にして歩く外ない。
長沢の池はよかつた、松並木もよかつた。
大道――プチブル生活のみじめさをおもひだす。
それから、――それから二十年経過!
佐波川の瀬もかはつてゐた。
若葉がくれの伯母の家、病める伯母を見舞ふことも出来ない甥は呪はれてあれ。
私を見つめてゐた子供が溝に落ちた、あぶない。
暑い風景である。
おもひでははてしなくつゞく。
宮市……うぶすなのお天神様!
肖像画家S夫妻に出くわした、此節は懐工合よろしいらしく、セル、紋付、そして人絹!
富海で、久しぶりに海のよさをきく。
大道、宮市、富海――あれこれとおもひでは切れないテープのやうだよ。
お宮の松風の中で昼食、一杯やりたいな。
転身の一路がほしい。
富海行乞、戸田行乞、二時間あまり。
さりとは、さりとは、行乞はつらいね!
S君の家はとりこぼたれてゐた、S君よ、なげくな、しつかりやつてくれ。
自動車、それは乗客には、そして歩くものにはまさに外道車!
旧道はよろしいかな、山の色がうつくしくて、水がうまくて。
今、電話がかゝつてゐるから、行乞の声をやめてくれといふ家もあつた、笑止とはこれ。
一銭から一銭、一握の米から一握の米。
暮れて徳山へついた。
徳山は伸びゆく街だ。
白船居では例のごとし、酒、飯、そしてまた酒。
雑草句会に雑草のハツラツ味がないのはさみしかつた、若人、女性を見分したのは白船老のおかげ、感謝、感謝。
白船居の夢はおだやかだ、おだやかでなければならない。
白船老いたり、たしかに老いたり。
けふいちにちはあるきつゞけた、十里強。
行乞はつらいね。
可愛い子には遍路をさせろ。
行乞は他を知り同時に自を知る。
月見草もおもひでの花をひらき
・春まつりの、赤いゆもじで乳母車押してきた
・春もゆくふるさとの街を通りぬける