TRENDIA CLASSIC

はちとくま

村山籌子

1 / 1

一匹の子熊が、森のなかから、のこ/\と日あたりのいい、のはらに出てきて、倒れてゐた丸太の上にこしをおろして、うれしさうにフフンとわらひました。

子熊はふところから、はちみつを入れたつぼをとりだして、ゆびでしやくつて、ちび/\なめはじめました。

「いつたべても、うまいのははちみつだ。はちみつにかぎる。あまくつて、おいしくつて。」とひとりごとを言ひながら、せつせとなめてをりました。

すると、そこへ、一匹のみつばちが、ブーンととんで来て、子熊の帽子のまはりを、ぐるぐるまひながら、言ひました。

「子熊さん。僕は、ほんとに、はらが立つてたまらないよ。」

「何がはらがたつんだ。僕はなんにも、君にわるいことなんかしたおぼえはないよ。」と、子熊は、やつぱり、みつをたべながらこたへました。すると、みつばちは、

「だつて、君、かんがへてみたまへ。君は、僕たちが、長い間、くらうをしてためたみつを、それこそ、べろ/\と、見てゐるうちになめちまうんだもの。これくらゐ、はらのたつことはないよ。」と、羽をふるはせて言ひました。

子熊は、かう言はれて見ると、何だかはちに、気の毒なやうな気持になりました。そこで、

「はちくん。そんなにおこらないでくれ。そのかはりに、僕は、君をいゝところへつれてつてあげよう。」といつて、子熊ははちを、花の一杯さいてゐる、誰も知らない、谷間へつれて行つてやりました。

村山籌子の他の作品