TRENDIA CLASSIC

川の中へおつこちたお猫さん

村山籌子

1 / 2

あるところにお猫さんがありました。どういふわけだか、生れつきお家にゐるのがきらひで、いつでもぶらりぶらりと、あるきまはつてゐました。

ある日、お母さんがおつしやいました。

「お猫さんや、今日は少し寒いから、お家にじつとしていらつしやい。」

けれども、お猫さんは、お母さんの姿が見えなくなると、すぐさまお家をとび出して、三町ほどむかふの川のふちのあひるさんのところへ行きました。

あひるさんのお母さんはおつしやいました。

「お猫さん、折角ですが、あひるさんはまだ学校から帰つて来ません。」

お猫さんはがつかりしましたが、お家に帰るよりこゝで待つてゐた方がましだと思つて、

「をばさん、外で待つてゐます。」と言ひました。

一時間待ちました。

あひるさんは帰つて来ません。寒い風が吹いて来て、お猫さんの帽子を川の中へふきとばしました。お猫さんは、一丁四方にもひゞきわたる程大きく

「ハクシヨン」とくしやみをしました。

あひるさんのお母さんはおつしやいました。

「お猫さん、今日は寒いから、もうお家へお帰りなさい。」

それでもお猫さんは「僕、ちつとも寒くないや。」といつて、動きません。

お猫さんはそこで、又一時間待ちました。けれどもあひるさんは帰つて来ません。

又、寒い風が吹いて来て、お猫さんの上衣を、川の中へふきとばしました。お猫さんは二町四方位にひゞきわたる程、大きく「ハクシヨン、ハクシヨン。」と、くしやみをしました。

あひるさんのお母さんはおつしやいました。

「さあ、もう、お家へお帰りなさい。風邪をひきますから。」

お猫さんはシヤツ一枚でガタガタふるえながら、

「大丈夫です。おばさん。」といつて、動きません。そしてもう一時間待ちました。

夕方になつて、嵐のやうに大きな風が吹いて来ました。そしてお猫さんはコロコロと川の中へおつこちてしまひました。

村山籌子の他の作品