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TORENDIA

女優

本文約8,800字 ・ 読了時間 約18分

あらすじ(AIが作成しました)

神経衰弱気味の戸田は、知人の紹介で、厳格な家庭から脱出を夢見る女子学生・百合子の仏語家庭教師として田舎の西洋館に同居する。百合子は周囲の男子学生や画家の協力を得て秘密裏に家出の準備を進め、戸田は彼女の奔放な振る舞いに翻弄されながらも、次第にその計画を助ける奴隷的な存在となっていく。やがて百合子は女優を志して去り、戸田は残された地で彼女の演技を回想しつつ、昆虫採集と生活を続ける。

牧野信一

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文科大学生の戸田の神経衰弱症が日増に亢進してゐる模様だつたので、私は彼を百合子に紹介した。百合子は女子大に通つてゐたのだつたが、彼女の都会生活の風聞に関して、実家の人達が極度の寒心を覚えて反対するところから、通学を断念してゐた。そして、仏語の家庭教師を欲しがつてゐた。

あの閑静な田舎で、百合子の語学研究の相手でもしながら田園生活に親しんだら、間もなく戸田の病気は回復するであらう――と、私は考へたのである。

これは、戸田の、或る草稿からの抜萃である。

一

どういふわけか僕といふ人物は、誰にでも、凡そ女のことに関しては、大丈夫な男である――と信用されるのが習慣であるが、この家でも矢張り間もなく絶対信頼をされてしまつて、はじめのうちは近所の農家に間借りしてゐたのだつたが、百合子の母親のすゝめで、此方に同居することになつてしまつた。

母家と池を隔てゝ築山の木陰にある古い西洋館の一室を与へられた。百合子の書斎もこの二階にあつて、食事と眠る時の他は大概此方で暮してゐる。休暇中の男女の学生の友達と百合子の往来はさかんで、麻雀などがはぢまると徹夜になつたりすることもあつたが、僕が居る間は、何事も安心だ――と彼女の母親などはすつかり落付きはらつてゐた。

「この間までは、少し遅くなると何うも心配で時々のぞきに来ずには居られなかつたのですが、左うすると百合子は不機嫌で、窓から飛び出して夜遊びに出かけるなんてことになつたんですもの……」

余程母親の眼は煩さかつたものか、今でも彼女達は往々窓を抜けて、夏蜜柑の樹が繁つてゐる裏庭から、更に塀を乗り越えて出入するのを僕は屡々眺めるのであつた。母親の態度も少々極端で、百合子が泳ぎに行きたがるのさへ面白がらぬ程だから、無理もないとは思ふものゝ、決してそんな仲間入りはしない僕から見ると、奴等のカラ騒ぎには反感を覚えるのである。――しかし、未だ海がさかんであつた時分、朝毎に百合子が此処を脱出する光景は仲々観物であつた。恰で脱獄者のやうであつた。

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