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TORENDIA

裸虫抄

本文約11,100字 ・ 読了時間 約23分

あらすじ(AIが作成しました)

山奥で療養を終えた男は、窮乏した実家で母と再会する。しかし、息子を不良児と見なす母との関係は冷え切り、男は放浪を決意する。彼は妻と共に残された書物や家財を整理し、再び流浪の旅へ出る準備を始める。母に対する憐れみと葛藤を抱えながら、男は従弟の送迎や日常のいさかいに追い詰められつつも、虚無的な空気に包まれた家を後にしようとする様子を描く。

牧野信一

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横須賀にゐる妹(彼の妻の)のところで、当分彼の息子をあづかりたいと云つて寄越したのである。子供のない慎ましい夫婦暮しで、文学の本ばかり読んでゐる妹であつた。彼の息子は、彼が転地療養をすることになつたが、学校の都合で東京の親戚にのこつてゐた。

「トモ子のところなら安心だわ。トモ子はだらしがないけれど、ひとのことには親切だし、それに朝雄さんが責任の強い人だし。」

と彼の妻は落着いてゐた。

彼は半年ばかりの間、その町から五六里も離れた山奥の村で病養の日をおくり、ひとまづ母親のゐる町に立ち返つたのであるが、母を交へようとする家庭の雰囲気が、もう好からうとおぼろ気に期待してゐた彼の思惑とは凡そ掛け離れて、彼の膝にとりすがつてさめざめと涙を流す叔母があつたりして、聞くだに陰惨な雲行だつた。倒れかかつたやうな、あばら家で彼の母親は手まはりのものなどを売りながら、寒々と息子の帰りを待つてゐるといふことをきいたので、彼は扶養の責任を感じ、何か生活の上で新しいわづかな希望をさへ覚えて立戻つたのだが、三日も経たぬうちに、やはり彼は放浪を決心しなければならなかつた。

「停車場に降りると、電話を掛けたんだよ、自分としては別段敷居の高いこともないんだが、俺の顔を見て、若しや、慌てて逃げ出すやうな人があると、此方が堪らなくてれ臭いんでね。」

彼は銀行に勤めてゐる従弟を訪ねて、そんなことを云つた。――「まるつきり別の家の人が出る始末さ。」

「知らなかつたの、とつくに売つてあることも――?」

「来て好かつたと思つたよ、その時俺は――噂にきいた通り阿母は痩我慢をしてゐるのだと思つたから――」

「君なんか何うせ何処に住んだつて関はないんだらうからな。」

「そんなこともないんだけれど、斯うなつた以上は阿母と離れては居られないと――」

彼は、云はば爽々しさを感じて、順当な息子らしい忠実に浸つてゐたのだから、

「――喰ひ詰めるとは戻つて来るんだつて。」

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