TORENDIA
覚書
水上瀧太郎
TORENDIA
覚書
本文約1,700字 ・ 読了時間 約4分
あらすじ(AIが作成しました)
泉鏡花が追求した芸術世界と比類なき描写力の神髄を論じる。近代文学において随一の描写力を誇った作家が、心理探求や日常の瑣末な現実ではなく、執拗なまでの文字描写と理想世界への情熱を通じて独自の美学をいかに構築したかを解説する。また、古来の芸道の境地を追い求め、あり得ざる世界を真実として描き出したその表現方法と、特定の類型的な登場人物が運命に翻弄されながら至純な感情を全うする鏡花世界の特異性を克明に綴る。
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泉鏡花先生は、天賦の才能を以て、極めて特異な思想感情を、あますところなく文字に表現し盡しておかくれになつた。凡そいかなる作家と雖も、一作を成すや直に、何か表現し切れないものゝ胸に殘つてゐる、あと味の惡さに惱むのが普通だらうが、泉先生にはそれが無かつたらしい。或は、先生自身にはかゝる惱があつたかもしれないが、少なくともその作品には、さういふ痕跡を止め無い。作者と作品の間に過不足がない。讀者の側で何か物足りなく思ふならば、それは先生の持合せてゐないものを求めてゐるのであつて、先生が持つてゐながら表現し殘したものでは無いのである。
明治大正昭和を貫く我國近代文學を、くまなくあさり求めても、先生程描寫力の豐かな作家は外に無い。鴎外や漱石が、先生を第一位の小説家として推奬したのも、主として此の素晴らしい描寫力に敬服した故であらう。西洋古今の小説家中、最も逞しい描寫力を持つと極附のトルストイは、あらゆる場面、あらゆる人間を描いて、しかも心理描寫を伴ふ非凡の腕力を發揮したが、繪畫的描寫の一面丈を比べるならば、泉先生も亦彼に劣らぬ鮮かさを示された。但し、彼とこれと、西洋畫と日本畫の相違の存する事は言ふ迄もない。
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