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TORENDIA

七月七日

本文約3,500字 ・ 読了時間 約7分

あらすじ(AIが作成しました)

蒸し暑い七月の日に、南薫造と有島壬生馬による滞欧記念展覧会を訪れた体験を綴る。会場に並ぶ近代フランスの名画の写真や、それぞれの画家の作品から受ける印象を記述する。特に南の抒情的な水彩画と、有島の確かな色彩表現による油彩画を対比的に描き出し、あわせて原田直次郎ら先人の孤高の画業を偲びつつ、芸術家が世に立つことの困難と作品の持つ情緒的な響きについて考察を収める。

蒲原有明

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🎧 七月七日 / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら

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朝から蒸暑かつた。とろんとした乳白の雲が低く淀んでゐて、空氣がじとじとして、生汗をかいてゐるやうな日である。

少し頭をぼつとさせて、外出先から家に歸りつくと間もなく、有島壬生馬さんの令弟のY君が見えた。これから一緒に「滯歐記念展覽會」を見にゆかないかと云ふことである。この畫の會は、南薫造さんと有島さんとが長い期間の外遊中に制作してためておいた畫幀を、歸朝後はじめて一般に公開して鑑賞させようといふ趣意で、白樺社が主催者に立つてゐるのである。わたくしはY君と二言三言談つてゐるうちに、氣分は稍爽やかになつてきたが、それでもまだいくらか頭が麻痺してゐる。

わたくしはこの程招かれて有島さんの畫室を訪ふたときのことを、ぼんやりと憶ひだしてゐる。有島さんは十數枚のカンバスを代る代る壁に立てかけながら、藝術の愛に充ちた眼をかがやかして、歐羅巴のなつかしい遊歴と研究とについて短い説明を添へられた。最後に全體の批評を乞はれたときに、わたくしは一寸ためらつた。

「それでは風景と人物とのうちで、どつちを好いと思ひますか」

「それは無論人物の方がおもしろいのです」

わたくしは簡單に、かう答へたと思つてゐる。わたくしの藝術的經驗がこゝにまた新しい感動を加へたことは爭はれない。幅の廣い、氣力のある描法がどの畫にも見られる。奔放である。若々しい野性美がある。わたくしはその時さういふやうな印象を受けてゐた。それを今埒もなく想起してゐると、Y君は懷中から小册子を取出して、前に置いて、

「こんなものが出來ました」と云ふ。

「これはシスレエの型を取つて拵へたのです。カツトもそのまゝ使つて見ました。まあこんなものでも、一枚刷の出品目録よりはよいでせう」

その目録には、南さんの方に高村君の序記が添へてあり、有島さんの方に志賀君の紹介が載つてゐる。それが先づ親密なゆかしい匂ひをただよはしてゐる。わたくしはY君と連れだつて上野に行く途すがら、電車の中でこのカタログを繰りひろげて、高村、志賀兩君の文章を讀んでみた。そしてその文章と畫題とを照し合せてみただけでも、ほぼ南さんと有島さんとの對比性が豫想される。

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