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TORENDIA

緑蔭叢書創刊期

本文約2,700字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

島崎藤村の大久保時代における創作活動と生活の様子を綴る。明治三十八年に上京した藤村が、独創的な書斎で執筆に専念した背景や、私生活での悲劇、そして自然主義の潮流の中で『破戒』から『家』に至るまで、自我に徹した姿勢で芸術境を築き上げるまでの過程を回想する。背水の陣で文壇の荒波に挑んだ作家の真摯な創作態度と、その魂の仕事場から生まれる作品の意義を論じる。

蒲原有明

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🎧 緑蔭叢書創刊期 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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藤村君のこれまでの文壇的生涯を時代わけにして、みんなが分擔して書きたいことを書きとめておくのもよい企である。わたくしには「若菜集」の出るやうになつた頃のことを書かぬかどうかといふ相談があつた。しかし藤村君とのつきあひは「夏草」出版直後からであるから、若菜集時代、即ち文學界末期頃とは全く無關係であつた。さういふわけから、それでは大久保時代をとの注文が出た。

さてその大久保時代を引うけて書くだんになると、その時期が短かかつただけに、格別これはといふ材料がない。その大久保時代にしても、ざつと今より二昔前のことである。ことに健忘なわたくしのことゆゑ記憶がかすんでゐる。止むをえず古い手筐をひきあけて調べてみたが、その時分のものでは葉書が二三枚出たまでゝあつた。五六年もつづいた小諸期のものならば長文の書簡がいくらでもある、その中には淺間の裾野で摘み取つて押し花にしたすずらんなどが、まださはやかに疊みこまれて殘つてゐたりするけれども、大久保時代のものとては、今云つたとほり短信より外に何もない。

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