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TORENDIA

新作いろは加留多

本文約1,000字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

いろは加留多に存在しない「ン」という字で始まる金言を思いついた著者が、それを用いて読者を翻弄しようと企てる。匿名での連載を狙い、意気揚々と新聞社を訪れた著者は、編集者の北原武夫に原稿を見せる。しかし、「ン」を「ウン」と読み替える北原の反応に意気消沈しながらも、改めて言葉の読みや発音をめぐる滑稽な顛末を綴り、いろは加留多の条件を覆す「ンをウンと読む利巧者」という金言を発見するに至る過程を描く。

坂口安吾

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🎧 新作いろは加留多 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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いろは加留多には「ン」がない。多分ンで始まる言葉がないからだらう。ところが、四五年前、ンで始まる金言を発見したから、ついでに「いろは加留多」を作らうかと思つた。そのうちに忘れてしまつたけれども、又、正月が近づいたから、思ひだした。ンの金言を発見した次第は、次のやうなものである。

北原武夫が都新聞の文芸記者をやつてゐたときの話である。都の匿名欄には僕も時々書いてゐたが、題と匿名は編輯者に委せて、僕がこしらへたことはなかつた。

匿名も同じものを続けてゐると、忽ち看破られる。そのうへ知らない読者には、匿名だけが一本立で歩くやうになり、書いてる本人は、ねざめのいゝ話ではない。それで、ひところ、編輯者の方で、しよつちう匿名を変へてゐたこともある。

ところで、話は「アリマセン」の「ン」であるが、アリマセンなら何でもないが、ンだけ一つ切離して言つてごらんと言はれると、降参する。腹に力をいれて「ン」と言つてみると三分の二ぐらゐ風になつて洩れたやうで、甚だたよりない。つまり一語分の資格に欠けてゐるのである。だから、これを真正直に発音した方で、拍子が抜けて、「ン」の奴に馬鹿にされたやうな、間の抜けた感じなのだ。

ふと、このことに気がついたから、然らば、ひとつ、天下のインテリ共を「ン」の字でもつて飜弄し、みんなに「ン」の字を発音させて、厭世感を深めさせてくれたら、さだめし面白からうと考へた。雑作もないことだ。都新聞に「ン」の匿名で書けばよい。翌朝、僕がまだ寝てゐるうちに、厭世者が続出してゐることになる。そこで、原稿を拵へて、意気揚々、都新聞社へでかけた。

「ねえ、君」と、僕は得意になつて北原に言つた。「この匿名を読んでごらん。拍子抜けがするだらう。一人前の字ぢやないんだね。張合がなくて、甜められたやうな、なさけない気持にならないかね。だから、君、読者をみんな悩ましてやるのさ」

北原は原稿を睨んでゐたが、暫く黙然、怪訝な顔をしてゐる。

「これはウンといふ字だね?」

「え?」

「ウンといふ字ぢやないのか?」

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