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TORENDIA

春雪

本文約11,600字 ・ 読了時間 約24分

あらすじ(AIが作成しました)

四月の雪の降る日、池田藤吉郎は知人の結婚式で、かつての仲間である伊沢忠と再会する。池田は戦争の過酷な時代に若くして逝去した柚子を思い出し、彼女が生前抱いていた秘密に想いを馳せる。厳格な神道の一家に育ちながらも、窮屈な環境で生きるなかでキリスト教の洗礼を受けた柚子は、俘虜収容所の前で出会った一人の青年に淡い恋心を寄せていた。戦況が悪化する中で二人が抱いた純粋な感情と、敗戦の混乱期に執り行われた代理結婚の顛末を、池田と伊沢の対話を通じて描く。

久生十蘭

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一

四月七日だというのに雪が降った。

同業、東洋陶器の小室幸成の二女が、二世のバイヤーと結婚してアメリカへ行くのだそうで、池田藤吉郎も招かれて式につらなった。式は三越の八階の教会で二十分ばかりですんだが、テート・ホテルで披露式があるというので、そっちへまわった。

会場からほど遠い、脇間の椅子に掛け、葉巻をくゆらしながら窓の外を見ると、赤い椿の花のうえに雪がつもり、冬には見られない面白い図になっている。そういえば、柚子が浸礼を受けた、あの年の四月七日も、霜柱の立つ寒い春だったなどと考えているところへ、伊沢陶園の伊沢忠が寸のつまったモーニングを着こみ、下っ腹を突きだしながらやってきた。

池田や小室とおなじく、伊沢もかつては航空機の機体の下受けをやり、戦中は、命がけで新造機に試乗したりして、はげまし合ってきた仲間だが、戦後、申しあわしたように瀬戸物屋になってしまった。

「いやはや、どうもご苦労さん」

「式には、見えなかったようだな」

「洋式の花嫁姿ってやつは、血圧に悪いんだ。ハラハラするんでねえ」

「それにしては、念のいった着付じゃないか」

「なァに、告別式の帰りなのさ。こっちは一時間ぐらいですむんだろう。久し振りだから、今日は附合ってもらおう。そういえば、ずいぶん逢わなかった。そら柚子さんの……」

いいかけたのを、気がついてやめて、

「それはともかくとして……どうだい、逢わせたいひともあるんだが」

「それは、そのときのことにしよう」

チャイム・ベルが鳴って、みなが席につくと、新郎新婦がホールへ入ってきた。新郎は五尺六七寸もある、日本人にはめずらしく燕尾服が身につく、とんだマグレあたりだが、新婦のほうは、思いきり小柄なのに、曳裾を長々と曳き、神宮参道をヨチヨチ歩いている七五三の子供の花嫁姿のようで、ふざけているのだとしか思えない。

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