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TORENDIA

顎十郎捕物帳

本文約12,900字 ・ 読了時間 約26分

あらすじ(AIが作成しました)

将軍の鶴御成を目前に控え、寵愛を受けていた丹頂鶴「瑞陽」が小松川の御飼場で死体となって発見される。死因は胸元にある二の字の刺傷だが、その真相をめぐり、北町奉行配下の仙波阿古十郎と、南町奉行配下の藤波友衛の両名が、将軍の御前で捕物と吟味の腕を競う対決に臨む。二人は異なる視点から死の理由を推察し、その背後にある事情を突き止めようとする。

久生十蘭

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二の字の傷

恒例の鶴御成は、いよいよ明日にせまったので、月番、北町奉行永井播磨守が、城内西の溜で南町奉行池田甲斐守と道中警備の打ちあわせをしているところへ、

「阿部さまが、至急のお召し」

と、お茶坊主が迎えに来た。

鶴御成というのは、十月の隅田川、浜御殿の雁御成、駒場野の鶉御成、四月の千住三河島の雉御成とともに将軍鷹狩のひとつで、そのうちにも鶴御成はもっとも厳重なものとされていた。

九代将軍が鷹狩でえた鶴を朝廷に献上して御嘉納をうけてから、爾来、年中の重い儀式となり、旧暦十一月下旬から十二月上旬までの、寒の入りの一日をえらんで、鶴御飼場の千住小松川すじでおこなわれたもので、最初にとらえた鶴は、将軍の御前で鷹匠頭が左の脇腹を切り、臓腑を出して鷹にあたえ、あとに塩をつめて創口を縫いあわせ、その場から昼夜兼行で京都へ奉る。街道すじでは、これを、『お鶴さまのお通り』といった。

その後にとらえた鶴の肉は、塩蔵して新年三ガ日の朝供御の鶴の御吸物になるので、当日、鶴をとらえた鷹匠には、金五両、鷹をおさえたものには金三両のご褒美。鶴をとらえた鷹はその功によって紫の総をつけて隠居させる規定。なお、当日、午餐には菰樽二挺の鏡をひらき、日ごろ功労のあった重臣に鶴の血をしぼりこんだ『鶴酒』を賜わるのが例になっていた。

文化のはじめごろまでは、鶴御飼場は、千住の三河島、小松川すじ、品川目黒すじの三カ所にあったもので、いずれも四方にひろい濠をめぐらして隣接地と隔離させ、代地と陸地との交通は、御飼場舟という特別の小舟で時刻をさだめて行うなど、なかなか厳重をきわめたものであった。嘉永のころになって、多少ゆるやかになったが、それでも、このころもまだ、御飼場の鶴を殺したものは死罪、傷つけたものは遠島に処せられる。

御飼場には、だいたい、おのおの十五カ所の代(季節によって鶴が集まる場所)があって、鳥見役という専任の役人が代地を管理し、六人の網差と下飼人が常住にそこにつめていて、毎日三度ずつ精米五合をまき、代地におりてきた鶴をならす。

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