顎十郎捕物帳
本文約11,400字 ・ 読了時間 約23分
あらすじ(AIが作成しました)
江戸で名高い南番所の同心・藤波友衛は、堺屋で起きた死者二名を虎列剌によるものと判断し、手代の忠助を犯人と断定していた。しかし、顎十郎という謎の男が、その死が石見銀山鼠とりによる事故である可能性を理詰めで看破する。藤波と顎十郎、二人の才気ある男が堺屋の真相をめぐり、知略を競い合う捕物帳。
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藤波友衛
坊主畳を敷いた長二十畳で、部屋のまんなかに大きな囲炉裏が切ってある。磨出しの檜の羽目板に、朱房のついた十手や捕繩がズラリとかかって、なかなか物々しい。
数寄屋橋内、南番所御用部屋。まだ朝が早いので、下ッ引の数もほんの三四人、炉端にとぐろを巻いて、無駄ッ話をしているところへ、不機嫌な突袖でズイと入って来た卅二三の男。土間で雪駄をぬぐと、畳ざわりも荒々しく上って来て、焼腹に羽織の裾をまくって、炉端へ坐りこむ。岡ッ引があわてて坐り直してごくろうさまでございます、と挨拶したが、そっくり返って返事もしない。
どこもここも削いだような鋭い顔で、横から覗くと鼻が嘴のように尖って見える。結ぶと隠れてしまうような薄い唇をへの字にまげてムッと坐っている。
藤波友衛。南番所の並同心で、江戸で一二といわれる捕物の名人。南町奉行所を一人で背負って立っているといってもいいほどのきれものだが、驕慢で気むずかしくて、ちょっと手におえない男である。藤波の不機嫌と言ったら有名なもので、番所では、ひとりとしてピリつかぬものはない。
一年中、概して機嫌のいい時は少いのだが、今日はとりわけ、どうも、いけないらしい。切長な細い眼の中でチラチラと白眼を光らせ、頬のあたりを凄味にひきつらしている。
岡ッ引どもは霜に逢った菜ッぱのようにかじかんでしまって、膝小僧をなでたり、上前をひっぱったり、ひとりとして顔をあげるものもない。
藤波は上眼づかいで、ひとりひとりジロジロ睨めまわしていたが、とつぜん癇声をあげて、
「だいぶ暇らしいの、結構だ。……どうした、そんなにかじかんでいねえで、なかんずくの大ものだという、いまのつづきをしたらどうだ。……飛んだ深笑靨で、それがふるいつきてえほどいいのだと。面白れえじゃねえか、それから、どうした」
貧相な撥鬢奴は、すっかり恐れてしまって、首に手をやって、
「えへへ、どうも、とんだことを……」
藤波はいよいよ蒼ずんで、
「なにも尻込みをすることはなかろう。……それとも、俺がいちゃ気色が悪くて話も出来ねえか」
「と、とんでもない」
と、息もたえだえ。
藤波は、唇の端だけで、もの凄くニヤリと笑って、