顎十郎捕物帳
本文約12,700字 ・ 読了時間 約26分
あらすじ(AIが作成しました)
江戸の捕物名人・仙波顎十郎は、失態から北町奉行所を離れ、雷土々呂進とともに辻駕籠屋として暮らす。ある夜、豊島ガ岡への送りを依頼してきた女から贋金を受け取った二人は、その出処を探る。翌日、女が何者かに殺されている現場を目撃した二人は、贋金つくりの一味を突き止めるため、原っぱで奇妙な狸囃子を演じて人を集める。やがて、その騒ぎに誘い出された贋金買いの浪人を捕らえ、古墳の下で行われていた大規模な贋金鋳造の拠点を暴き出す。
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あぶれ駕籠
「やけに吹きっつぁらしますね」
「うるるる、これはたまらん。睾丸が凍えるわ」
師走からこのかた湿りがなく、春とはほんの名ばかり、筑波から来る名代の空ッ風が、夕方になると艮へまわり、梢おろしに枯葉を巻き土煙をあげ、斬りつけるようにビュウと吹き通る。いやもう骨の髄まで凍えそう。
もとは、江戸一といわれた捕物の名人、仙波顎十郎も、この節はにわか駕籠屋で、その名も約めて、ただの阿古長。
相棒は、九州あたりの浪人くずれで、雷土々呂進。このほうも、あっさり縮めて、とど助。
二三日あぶれつづけで、もう二進も三進もゆかなくなった。
きょうは正月の十日で、金比羅まいりの当日、名代の京極金比羅、虎の御門そとの京極能登守の上屋敷へ讃岐から勧請した金比羅さまがたいへんに繁昌する。
アコ長ととど助、屋敷の門前へ四ツ手をすえ、諸声で、
「ヘエ、まいりましょう」
「これ、駕籠へのらんか、安くまいるゾ」
と、懸命にやったが、ひとりも客がつかぬ。
しかたがないから、白金へまわって、ここもやっぱり金比羅勧請の、高松の松平讃岐守の上屋敷。植木の露店なども出て、たいへんな人出なんだが、ここもいけない。
アコ長、とうとう音をあげて、
「こいつア弱った。こう見えても、わたしは信心のいいほうなんですが、いっこうに御利益がありません」
とど助も、弱った声で、
「いかにも珍である。こうまで精を出して、ただのひとりの客がないというのは、実に異なことだな」
「澄ましてちゃいけません、とど助さん。けさの八ツから空ッ風に吹きさらされ、おまけに形のあるものはなにひとつ咽喉を通していないんだから、くたくたのひょろひょろ、棒鼻にもたれてようやく立っているというばかり、ひでえ悪日もあるもンだ」
「その点は、わしも同様。けさからなにも食しておらんので、空腹でやりきれん。なんとかならんものであろうかの」
「わたしに相談しかけたってしょうがない」
「しからば、だれに相談するとか」
「なにをゆっくりしたことを言ってるんです。ひょっとすると、こりゃ、晩まであぶれですぜ」
「どうも、弱った、弱った」